伍. ページ5
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「 ここが幻の桃源郷... 」
溢れる山崎の声は唖然そのもの。
それもそのはず、俺たちの目には地上とは異なる光景が広がっていた。
高く狭い天井が圧迫感を醸し出し、ネオンの怪しい灯りがこの空間を照らす。
浪士ばかりが行き交い、身なりよく顔を隠した者は幕府関係者だろう。
酒なのかそれとももっとやばいものなのか、裏路地には転がる浮浪者の多いこと。
「 今回は様子見だ。得体の知れない以上派手には動けない。近藤さんが屯所に残っているが、動きを悟られるのも時間の問題だろう 」
「 山崎は経路の確保を。俺と総悟は桃源郷の情報集めを優先させる。何かあれば無線で知らせてくれ 」
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「 探れば探るほど核心から遠のきますねィ 」
此処では下っ端の攘夷浪士として探りを入れるも、中々尻尾を出しやがらない誘拐事件の経路。
横を歩く総悟は既に飽きてきたようで、自身の人選ミスに溜息を吐くも、騒がしい人だかりに興味をそそられる。
「 なんの騒ぎだ? 」
「 なにやら遊郭から追い出されたみたいでよぉ 」
取り押さえられるように地面に押し付けられる男。
群衆の一人に声を掛ければ、そいつは何の疑いも持たずに話を続ける。
「 なんでも雪路太夫の身請けをしたいと聞かなかったもんでこのざまよ 」
「 雪路太夫? 」
「 おめさんら知らねぇのか?! 」
総悟の軽い質問に酷く驚いた様子を見せる男に取り繕うように言い訳をすれば、今度はバシバシと背中を叩いて笑う。
「 そうかそうか、此処に来るのは初めてか。んなら俺が教えてやる。桃源郷の"天女"を 」
「 此処は、酒に博打に人間の欲が全て詰まったような場所だ。中でも有名なのは遊郭。桃源郷の目玉と言ってもいいだろう 」
そう言う男の見上げる視線を辿れば、ひと際目立つ大きな建物。
「 桃源郷の遊郭は最高だ。美女揃いだってのに遊ぶときたら吉原の半分で事足りる。だが雪路太夫は別だ。まず一般人では座敷に上がるどころか指名すらできない。どんなに通った男でも一夜を共にすることはできないもんだから、ああやって堕ちてく男が多いんだ 」
「 確かにそこまで言われちゃ、どんなにイイ女か見物したくなりますねィ 」
「 良いも何もあれは完璧だ!面も体も声も頭も良い。特に舞う姿が天女のようだってんで、"桃源郷の天女"なんて呼ばれてんだ 」
「 噂が噂を呼んで、今では目当てに此処に来る輩も少なくはない 」
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作者名:□白澤□ | 作成日時:2020年10月22日 11時