拾弐. ページ12
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「 ッたく..なにをやってんだお前は! 」
「 ...すんません 」
楼主だという天人のお付きに突っかかって行ったトシは、すぐさま雇い人の男達に剥がされた。
「 まぁまぁ、そんなに怒らないでやってくれよ。さっきのべっぴんが雪路殿だろう?雪路殿に怪我が無くて良かったじゃないか 」
近頃トシの様子が可笑しい。心此処に在らずと言ったようで、先程は本能で動いてしまったようにも見える。
「 盛り上がっているところ失礼しても宜しいかしら? 」
突然と部屋の外から聞こえる透き通るような声。
襖を開ける仕草一つ一つが洗練されたようだ。
「 雪路太夫!? 」
「 雪路姐さん!? 」
遊郭のトップが下っ端である裏方達の仕事場に来ることはさぞ珍しいのだろう。一斉に驚きの声をあがった。
「 男衆の者から聞きました。貴方方が新しい雇い人ですね、先程はありがとうございました 」
「 ...しかし、頼んでもいないありがた迷惑極まりない行動です。此処は甘ったれた地上ではない、地下の遊郭。立場を弁える事が此処では何よりの規則... 」
「 此処の規則が守れないなんて話にならない。貴方達を雇う事はできません。出ていきなさい 」
まさかの展開に、驚きを隠せないのは俺達だけではなかった。
「 ま、まぁまぁ!口の利き方は悪かったが、姐さんの為を思ってやった事だろうし... 」
「 ...明日には荷物をまとめて出て行ってください。門衛には此方から話をつけておきます。貴女達も何をしてるの?こんなところで油を売って。品格を大事になさい 」
庇う遊女の話も聞かず、冷ややかな声が響く。
拒絶しているのか、最後までトシを見ずに出ていってしまった。
「 姐さんのあんな態度初めて見たわ...どうしちゃったのかしら..」
「 土方さんのせいでまずいことになってきましたねィ。どうしやすか近藤さん 」
ざわつきに乗じて、耳打ちをしてくる総悟。
うんと考えるがどうも何かが刺さる。
「 トシ、ちと厄介なことになったが収穫を得る前に此処を退くのも惜しい気が....トシ? 」
覗いたトシの顔は、怒りでも悲しみでもない。
ただひたすらに太夫が去ったその襖を見つめていた。
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作者名:□白澤□ | 作成日時:2020年10月22日 11時