壱. ページ1
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「 君がため惜しからざりし命さへ 」
夕焼け色の空。
幼い影が二つ、神社の境内に伸びる。
得意気に響くのは甲高い声。
しかし、すぐにそれはつまらなそうに頬を膨らませた。
「十四郎くん弱すぎ 」
「 ばっ、しょーがねぇだろ！百人一首なんか興味ねぇし 」
古びた境内に散らばるのは、使い古された札たち。
いじけたようにそっぽを向く少年に、少女はお構いなしと拾い上げた下の句を差し出した。
「 "君がため惜しからざりし命さへ ながくもがなと思ひけるかな"...この歌はね、藤原義孝って人が想い人に送った歌なの。 」
「 "貴女の為なら捨てても惜しくないと思っていた命だけれど、貴女と逢えた今は、永く続いてほしいと思うようになりました"、って意味。とても素敵じゃない？ 」
楽しそうに話す少女とは裏腹に、頬杖をついて納得がいかないと言った表情の少年。
そんな様子に「十四郎くんはまだ子供だから」なんて上から物を言えば、横に置いていた木刀を沈みゆく太陽にかざす。
「 惚れたヤツは命を懸けても守り抜く。それが武士道ってもんだ 」
「 だからA、お前の事も俺が守る 」
ゆっくりと後ろを向けば、せせらぐ川よりもキラキラとした瞳。
「 十四郎くんどうして？どうして私を守ってくれるの？」
「 な、なんでもだ！しつこいぞ！ 」
言葉にして欲しい少女と、恥ずかしさから口に出したくない少年。
二人の可愛らしい攻防戦は蜩の声と共鳴する。
この時間が永遠と続くはず。
そんな頼りの無い想いは暗闇と共に消えていった。
_______俺の後悔だけを残して。
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作者名：□白澤□ | 作成日時：2020年10月22日 11時
