十一話 兄の思い ページ11
食べるものを母に渡しに行く頃にはあたりもすっかり暗くなっていた。キャンドルの灯りがなんだか幻想的だ。
私たちも買ったご飯を食べていると、どうやら祝祭のダンスが始まるようだった。小さい子から老夫婦まで、誰もが楽しそうに踊っている。一曲分が終われば次の組の人達が踊り出て、終わった組は花のやり取りをした後、また違うパートナーを探す。
(皆楽しそう……やっぱり好きな人と踊ったりするのかなあ)
去年まではとりあえず近くにいた人とか、お店で顔見知りの人とかと踊っていた。それはそれで楽しかったけれど、好きな人と踊れたならそれだけでいい思い出になるだろう。今だからそう思える。
(つい、考えちゃった……)
心がきゅーっとなってなんだか苦しい。彼はここにいないし、来れるわけもない。そうわかっているのに頭の中から離れない。
「よし!」
食べていたものを飲み込みながら兄が声を上げた。
「腹ごしらえもしたし、そろそろ曲も終わる。踊ろう、ソフィー」
「う、うん」
母が行ってらっしゃい、と言うように手を振った。兄が私の手を引いて、広場の中心近くへ向かう。場所についたところでちょうど曲が始まった。
聞き慣れたリズムに合わせてステップを踏む。向き合っている兄をチラリと見れば、実に実に楽しそうだった。
「オレ、ソフィーと踊るのすごく楽しいよ」
「毎年踊ってるじゃない」
「そうだけど、今年は急にソフィーと離れ離れになっちゃったから。お前が近くにいてくれることが嬉しくて」
曲に合わせて、私はくるりと回った。
「だから、お兄ちゃんとしてはお前に帰ってきて欲しい。三人で過ごしてた日々に早く戻りたいんだ。……それに、もう母さんは元気になったけど、時々怖くなる」
「?」
フッと兄の顔に影が降りる。
「……こんなこと、思っちゃいけないんだけどさ……母さんが酷く咳き込んだり、少しふらついたりしているのを見ると、オレ、とうとう一人になっちゃうんじゃないかって、不安になるんだ」
父がこの世を去ってから十年。いつも不思議なくらいまっすぐ前を見ていた兄からの、初めての弱音だった。
「ソフィアが仕事を楽しめて、充実しているならオレだって嬉しい。でも、帰ってきてほしいって思ってるのはそういうこともあるんだ。……ごめんな、祝いの日にこんな話」
「……ううん。話してくれてありがとう」
そう返事をして、ちょうど曲が終わった。
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お芋(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» わー!!再びコメントありがとうございます……!!そうなんです。彼は不器用なんで……ほんと!!(言葉にならない)そして、そうです!私自身彼らが大好きなのでもう少しだけ、騒がしい彼らの様子を書けたらな〜と思っております!お楽しみに! (2020年2月27日 23時) (レス) id: 105c0e2da2 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - 本編は…ということは番外編や後日談が更新されるという解釈で合っていますか?楽しみすぎます…!! (2020年2月27日 23時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - タイトル回収されてドキドキしました…ソフィアちゃんの告白が成功して思わず「やったー!」と喜んでしまいました( ´∀`)やっぱり両片想いだったんですね!一緒に働き続けたいがためにちょっと面倒くさくなってしまうグレンさんかわいくて大好きです!(続きます (2020年2月27日 23時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
お芋(プロフ) - わさん» コメント、感想ありがとうございます!本編は完結しましたが、もう少しだけ続くので楽しんでいただけると幸いです(*^^*) (2020年2月27日 22時) (レス) id: 105c0e2da2 (このIDを非表示/違反報告)
わ - 早く続きがみたいです!!すごく楽しみにしています! (2020年2月27日 3時) (レス) id: 6d2dda4d98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お芋 | 作成日時:2020年1月14日 21時