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伊野尾side
一瞬だけ。
苦しそうに眉を顰めたゆうとは、すぐに決意の硬い瞳で俺を見据え、そっと俺の髪を手櫛で優しく梳いた。
「……俺、海外での仕事、受けようと思う。」
________嗚呼、朝から落ち着きがなかったのはその所為か。
勿体振らずに言ってくれれば良かったのに。俺は受け止めるのに。胸の奥が一瞬だけ酷く軋んだのには気付かないふりをして、目の前の恋人の方にしっかりと向き直った。
「大好きな皆を支える為に、もっともっと自分の可能性を広げたい。新しい環境で、自分では想像もつかないことを沢山知れたら、きっと今までの先に行けると思うんだ。」
「……うん」
「メンバーはいない。いのちゃんとも会えない。そんな日常を、自分自身が受け止められるのかまだ不安。でもいつか……いつか本当の意味で、自分と向き合える様になったら、」
大好きなゆうとの瞳が、睫毛が、不安気に震える。
『俺だけは分かってあげないと』『頷いてあげないと』
そんな意識は胸の奥から溢れそうなほど湧き出てくるというのに、愛しい彼に掛ける言葉も、今の状況に相応しい言葉も、俺の口からは思うようには出てきてなんてくれなかった。
……でも、でもね、ゆうと。
「大丈夫。ゆうとなら、絶対大丈夫。」
きつく首を絞められたみたいな情けない声で、ただただそれだけを早口に呟いて、彼の胸板に飛び込む。彼が決めた事だから、俺は絶対に縋ったりなんかできやしない。
「……いのちゃん」
「ッ大丈夫、ゆうとは凄いから」
「ねぇ、」
「だいじょうぶだからね、絶対、成功するよ。」
「待って、いのちゃん」
「ゆうと、っゆうとなら、」
「いのちゃん……ッッッ！！！」
思い切り肩を掴まれ、揺さぶられて、やっとのことでハッと我に返った。
俺を強く鋭い眼差しで見つめるのは、やっぱりどうしようもなく愛おしい彼の目。
「教えて、いのちゃん。今だけは大人ぶらないで。ちゃんと気持ち、教えて欲しいんだ。」
「あ……」
温かくて、逞しい腕に再度抱きすくめられ、意図せずともぐらぐらと目頭が熱くなって息が詰まる。
彼はもう大人だ。俺よりずっと背も高くて。
あんなに小さくて可愛らしかった体も、今では筋肉もついてがっしりとした体格になった。
全部、全部。彼はもう俺よりずっと。
「________嫌……、」
怖い。
この手が離れていくのが。
「〜〜ッ、嫌だ、……ッッッ！！！」
願わくば、いつまでも隣で居させて。
柔らかく髪を撫でながらおはようって微笑んで。
優しくキスしながらおやすみって電気を消して。
その切なくなるくらい温かな眼差しでまた、
俺だけに、レンズを向けて。
．
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ひまちぃ(プロフ) - うさこさん» うさこさんありがとうございます！！コメントすごく嬉しいです😆次回作も力を入れて頑張りたいと思います！！ (2022年7月13日 19時) (
レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ(プロフ) - こんばんわ。やっと仲直り😊いのちゃんの気持ちを思うと泣けてきちゃってずっと気になっていたのでハッピーエンドになって嬉しいです🙂次の作品も楽しみにしています。 (2022年7月13日 1時) (レス) @page49 id: f4957992c9 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - Rinさん» ありがとうございます！！コメント本当に嬉しいです！！最近は更新頻度も落ちてきてご迷惑をおかけしていることは承知ですが、気長にお待ちいただけると幸いです。 (2022年7月8日 21時) (レス) @page45 id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
Rin - このシリーズすっごくすっごく好きです！！この後の展開が気になって仕方ない書き方をされるのでワクワクが止まりません！早く続きが読みたいです！待ってます！！ (2022年6月30日 19時) (レス) @page44 id: b5ace0fd89 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ぬんさん» コメントありがとうございます！！すっごく嬉しい感想で、静かに喜びを噛み締めてます……！！これからもどうかご愛読ください！！ (2022年6月19日 19時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひまちぃ | 作成日時：2022年3月9日 12時
