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伊野尾side
眼球の表面が水の膜で覆われたように激しくゆらゆらと揺れ滲む視界の向こうで、マネに呼ばれて楽屋に入ってきた警察の方が、俺にとある本を差し出した。
青色の、かなり古びた質感の表紙に、水でも浴びたのか、僅かに縒れてしまっているページ。背表紙には掠れた文字でNo.1と綴られている。
「……これ」
「中島さんの自宅から発見されたものです。部屋に生活用品はなく、代わりにそれと同じ形状のものが数十冊は残されていました。」
ゆうとの、自宅。
それはきっと、同棲し始める前のお互いの家の事を指しているのだろう。
俺はもう暫く立ち入ってない場所だ。
そんな所に詰め込まれた、大量の同じ本。
……きっと、彼にとって特別だったもの。
「……開いても？」
「はい。許可は頂いています。」
真剣な表情でそう告げる警察の後ろには、確かにダンボールに入った同じ本が溢れるほど積み重ねられ、丁寧に包装されていた。
背表紙に記される数字が増えていく度にだんだんと褪せていた彩が戻っていくそれは、ゆうとがこの本をここまで重ね続けてきた、俺たちじゃ想像もできないほど長い年月を物語っている。
楽屋中の視線を全身で感じながら重たい感触の表紙に手を掛け、ベリベリと、紙 同士の張り付きを感じて。
早鐘を打つ心臓をぼんやりと想い、小さな深呼吸を何度も繰り返しながら慎重にその一ページ目を開くと、“それ”はすぐさま俺の目に飛び込んできた。
「________________これ、」
……少しだけ画像の荒い楽屋の写真。
傍から見れば何の変哲も無い只の写真だが、俺はこれがどれだけ彼にとって特別な物かをよく知っている。
___________”ほらゆうと、もっと手伸ばさないと”
「ッ、ぁ……あぁ……っ……」
身慄いが細い螺旋形の鋭さとなり、俺の手を震わせて。
やけに拙い瞬きをパチリと写真の上に一つ落とせば、今までの人生が一気に頭の中へと叩き込まれたかの如く、かつての涼しげな青さと、幼子の指先の暖かさが、俺の胸を突き破る様にして通り抜けていく。
……ゆうとが、初めてカメラをその小さな手で抱えて
全員での通し練習に訪れたのは、いつのことだったか。まだ随分とあどけない表情をしたあの子が一番に撮りたがったのは、何の特別感も無い、普段の楽屋の風景。
『当たり前が、未来の僕らにとって、きっと特別な何かに変わるから』
澄み切った瞳でレンズの向こうを見つめて少しだけ掠れた声を響かせた幼い彼が、俺の瞼の裏側で、まるで幸せだと謳うように青空の如く晴れやかな笑顔を向けて、柔らかなその手を小さく振った。
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ひまちぃ(プロフ) - うさこさん» うさこさんありがとうございます！！コメントすごく嬉しいです😆次回作も力を入れて頑張りたいと思います！！ (2022年7月13日 19時) (
レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
うさこ(プロフ) - こんばんわ。やっと仲直り😊いのちゃんの気持ちを思うと泣けてきちゃってずっと気になっていたのでハッピーエンドになって嬉しいです🙂次の作品も楽しみにしています。 (2022年7月13日 1時) (レス) @page49 id: f4957992c9 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - Rinさん» ありがとうございます！！コメント本当に嬉しいです！！最近は更新頻度も落ちてきてご迷惑をおかけしていることは承知ですが、気長にお待ちいただけると幸いです。 (2022年7月8日 21時) (レス) @page45 id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
Rin - このシリーズすっごくすっごく好きです！！この後の展開が気になって仕方ない書き方をされるのでワクワクが止まりません！早く続きが読みたいです！待ってます！！ (2022年6月30日 19時) (レス) @page44 id: b5ace0fd89 (このIDを非表示/違反報告)
ひまちぃ(プロフ) - ぬんさん» コメントありがとうございます！！すっごく嬉しい感想で、静かに喜びを噛み締めてます……！！これからもどうかご愛読ください！！ (2022年6月19日 19時) (レス) id: aaba219193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひまちぃ | 作成日時：2022年3月9日 12時
