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視界の隅で口を半開きにしたソウタくんが、ゆっくりと私から日高さんに視線を動かすのが分かった。顔色を伺ってるんやろうなぁとわかる仕草。
「ミヅキは何かいい案がある?若者……よりも沢山の人を受け入れられる表現って、どんなものだろう」
日高さんはこういう時、絶対に私達の意見を否定しないなぁ。まずは受け入れて、抽象的な感情に具体性を持たせるように導いてくれる。
だから私も、拙くても言葉を繋ぐことができる。
「…………“人々の”……うーん、違うなぁ…………“私たち”、……んー」
「なやむねぇ」
「そりゃそうやん。舜斗なんかあるん?」
「どうかな。」
企画書に目を落としながら舜斗はニヤリと笑う。「俺こうゆう企画書見たの初めてだから分かんね」って、それを言うなら私もなんやけど。
彼はあんまり、考える気も無さそうだ。
(…………初めて、か)
ふと思いついたのだが、そもそもタイトルはターゲットを明確にするものじゃなきゃいけないのだろうか。
「…………ん?なんかありそう?」
チラリと目配せした視線に気が付いた日高さんが、首を軽く傾げる。
「ターゲットを示す表現じゃなくて、DJである私自身を指す言葉だったらどうですかね?」
「具体的に?」
「アーティストとしてはまだ新米、ほとんど一般人で、ギターは始めたばかり。そんな私が作るのであれば……」
瞬間、頭の中に、語呂のいい言葉が浮かび上がる。
視線と仕草で筆記用具を探し始めた私に、リュウヘイが気付いてボールペンを渡してくれた。
「例えば、こんなタイトル……」
スラスラっと英語を書き連ねる私の横で、ソウタくんの小さな「おおっ」という声が聞こえる。
(ああ、これなら)
書き終わって上げた顔は、自分でも分かるほど満足気だった。
紙をくるりと回して日高さんに向ける。
「“初心者の音楽集”……いいね、語呂もいい。僕はちょっと、Monsterで来ることを一瞬期待したけど」
いたずらっ子みたいな笑みで頷いて「でもこっちの方が良いね」と言ってくれる。私はそれに、小さく首を振って答えた。
視線を落として、書いたばかりの文字をもう一度頭の中で読み上げる。
“ Beginner Tune Anthology ”
うん、絶対こっちの方が良いよ。
“怪物”なんて、日高さんくらいしか言わないんだもん。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時