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「…………、」
「ん?」
「ひだかさん、」
「うん?」
「父のこと……ちゃんと出来なくてごめんなさい」
日高さんがたとえば私の何もかもを、受け入れてくれる器の広さを持っていたとしても。
今回のことを有耶無耶にしたまま、デビューを迎えちゃだめなんだと思う。
「……それを言うのは僕の方だね」
「日高さんは何も悪くないです」
「君を傷つけたのは他でもない僕でしょう?」
「……ちがいます」
「じゃあほら、俺の目を見てもう一回違うって言ってごらん?」
突然変わった一人称にドキリとする。
前にもこんなことがあったなとも。つい最近も……いつだっけ、そう、父の無神経さに彼が怒りを見せたとき。
「…………本当に違います」
「、」
「日高さんはちゃんと私の気持ちを考えて、あの人に怒ってくれた。
あの日、あそこに来るまでに、きっと沢山 私のこと考えてくれてましたよね……そんな人に“傷付けられた”なんて思うわけないです」
生まれ育った環境が違うから。
根っから分かり合えない事だってある。
日高さんはそれでも、私を守ろうと考えてくれていた筈。じゃなきゃあの場で、『自分が少しでも強く見えたらいいなと思う』なんて言葉が出てくるわけないのだ。
「でももう……、今日でこの話は終わりにしたいです。だから最後に謝っておきたくて……ちゃんと出来なくてごめんなさい」
「……ミヅキにそう言われちゃったら、弱いな」
「ふふっ」
「もう会う気はない?」
「……うん。いらない」
「、…………わかった。分かったよ」
「レオくんにも謝ります」
「あー、んふふっ……聞いたよ」
「やっぱり」
そりゃ聞いてるよねと苦笑い。
戸惑わせてしまった彼にもまた、私から言葉をかけないと。きっとレオくんもそれを待っているはず。
空のグラスの縁を撫でた日高さんは「もう一杯だけ飲もうかな」と腰を上げる。
私はその場で座ったまま キッチンに向かう背を見送った。
「……………………ありがとう、」
彼に聞かれたら『どうして?何が?』と質問されてしまいそうで、思わず小さくなった声。
いつも見守ってくれて、
わがままを受け入れて、励ましてくれる。
(貴方のような人が父親だったら……)
そんな風に考えてしまう胸の痛みも、今は少しだけ心地よく思う。
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next , Music hour 3
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時