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「わたしね、雷が鳴る夜に生まれたんだって」
立てた膝に回す自分の腕の中に口元まで埋めながら、目だけを半分伏せるような虚な視線。
そんなAが言う言葉の意味が、俺にはあんまり分からなくて。
「みづが生まれた日の話、初めて聞いたかも」
「私も初めて聞いたよ」
「……?」
「今日ね、お父さんに会ったの」
ここ最近の全てに合点がいく、そして予想していなかった一言に言葉を失う。少し考えて、俺は堪らずにAの背中に手を置いた。
「………………生きてたのか?」
「うん。」
「どうして今更」
「ね、私も同じこと聞いたよ」
「聞いたら?」
「向こうな、再婚したんやって。ほんで、奥さんとお子さんが私のファンやから、知らんぷり出来んくなったんやって」
は、と口から息が漏れる。
それ以上の言葉を出すには、思考がまだ追いつかない。
でも「なあ舜斗」と、やっとこちらを見たAの目から出る涙と続く言葉に、頭が沸騰するような気持ちになるのは必然だった。
「私の存在ってなんなんやろ。なんでみんなが当たり前に持ってるもん、私にはないの?」
そっか、お前、そんな風に傷付けられたのか。
怒りで震える手を、Aの背中の上で拳を握って堪える。
「家族に向き合って欲しいっていう 日高さんの思いにさえ満足に応えられない。メンバーはみんな、音楽の話をするみたいに当たり前に 家族の話もできるのに、私にはそれが出来ない。
どうして?生きてたのに、誰も一度も、教えてくれなかったの?家族って、無償の愛で繋がるものだと思ってた。私に何も誇れるものがなくても、愛してくれた人が私にだっていたの。なのにどうして、音楽だけで繋がるメンバーが、私を“家族みたい”って言えるの?音楽がなかったら、出会いもしなかった人なのに。
いやだよ、……っ、こんなこと考えたくないのに、頭ん中そればっかり」
ぐしゃぐしゃな顔で泣きながら、最後はしゃくり上げるように話すA。
俺はただ自分まで泣きそうになるのを抑えながら、こいつが全てを吐き出すのを待っていた。
ふと言葉が途切れた時
どうしようもなくなって、Aの体育座りを崩すように、膝と腕の間に自分の手を滑り込ませて 下から抱え上げながらその身体を自分の方へ引き寄せた。
「辛かったな、みづ」
「っ、」
「なんも気付いてやれなくてごめんな」
背中に手を当てて、一定の間隔で軽く叩く。
そうじゃないと泣きすぎた体は、呼吸が乱れて苦しそうで。
そういやガキの頃から
Aを泣かせたクソッたれに噛み付いては、小さかった俺は何度も返り討ちにされてきた。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時