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ひんやりとしたフローリングを歩いて、Aの部屋の前に立った俺は 遠慮なくその扉を開ける。
途端に鼻腔をつくAの匂い。
香水も柔軟剤も使ってないはずなのに、そのどれよりも心地いいそれが怖くて、俺はあの夜 選択を間違えた。
常夜灯がつく薄暗い部屋の中に、ベッドの上で体育座りのまま顔を俯かせるAがいる。
俺が入ってきてもぴくりとも動かない身体。
ベッドサイドまで寄って、その頭に手のひらを乗せる。
(……、丸い、可愛い)
Aが全然顔を上げないのを良いことに、気のゆくままに撫でてめいいっぱい可愛がる。
短い髪から覗く白い耳に 人差し指を撫で付けたら、ひくりと跳ねる肩。“やめて”と言いたげに、Aの手が俺の指を払うような仕草をした。
それに習ってスッと引いたら、意外にもその手が後を追うように伸びてきて、俺の指を掴み取る。
「………、」
わざと引こうとすれば、ギュッと絡みつく指。
離すまいとする仕草が愛おしい。
「どうした?みづ」
「……」
「雷が鳴ってたか?」
俺達のトークにたった一言送られてきた、
“あらしのよるに” という言葉。
それが何を示しているのか
瞬時に思い出して行動した自分を褒めたい。
僅かにAの顔が上がった気がした。
それでもまだ俯いたままで、その表情は確認できない。
「……『舜斗には関係ない』って言って、ごめん」
ああ、そこなんだ。
と、その第一声に思わず口角が上がる。
俺の指と絡む手に更に力が込められた。
「関係ない、は無いよなぁ」
ニヤニヤする表情が声に出ないように意識したら、想像以上に低くなる声。そうすれば「、しゅんと」と縋るかのように俺の名前を呼ぶ。
「座って、ここ、おねがい……っ」
あー、もうだめだ。
謝って来るつもりなら もっとこう、お前が言ったことがどういう意味か分からせてやろうと思ったのに。
引き寄せられるようにベッドに腰をついて、Aの身体に腕を回しそうになるのだけはグッと堪える。
「座ったよ」
「、ん……」
次はどうしたらいい?
もう気の済むまで甘やかしてやるから、Aから言えよ。
理性を飛ばすような甘い声の おねだりが聞きたいだけの俺は
そんな風に思いながら、白い耳に口を寄せて「それで?」と問いかける。
「おはなし聞いて」
「うん」
「……たくさんあるの」
「全部聞かせろ」
低く深く、言い聞かせるように。
Aがこうなるまで 待ち続けてしまった不甲斐なさを感じながら。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時