15-1 嵐の前に ページ31
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週末といえど昼前ということで、中目黒公園の人出はそこまで多くない。
木陰のベンチでキャップを被るでもなくマスクを外して、ボーッと曇り空に飛ぶ鳥を眺めていた。
「やあ、ごめんごめん。探したよ」
いきなり耳元でやたらと甘い声で囁かれて、肩に置かれた手に驚き 勢いよく振り向く。
ごく至近距離に真面目な顔をしたマナトくん。
え、なに……?と頭の中は混乱したまま数秒見つめ合った。
「は?」
「もう終わりだ……美しくなければ、生きてたって意味がない……」
「……マナトくんは十分美しいけど。喧嘩売ってる?」
「やだな、ハウルだよ」
まさかハウルも知らないとか言わないよね?と言いながらマナトくんはスッと私の隣に腰掛けた。
「ああ、……え、とっておきのモノマネってそれ?」
「いや普通に結構探したから、言ってみたかっただけ」
「、そっか、来てくれてありがとう……」
ふわふわの髪の毛と、GパンにロンT。
急いで家を出てきてくれたのかなって、想像したら少し嬉しくなる。
「ちゃんと俺のとこに来たね」
「……おいでって言ってくれたから」
「上出来だよミヅキ」
「なーんか、偉そうにゆう」
「AコースとBコースあるけどどっちがいい?」
「ん?」
「とっておきのネタ」
「どっちがおすすめ?」
「俺ならAコースにする」
「ほなBで」
「なんでだよっ」
ケラケラ笑いながらポケットに手を突っ込むマナトくん。
なんだ?と思って目で追っていたら、ポケットから握り拳を出してきた。
「?」
「引っ張ってみて」
拳の間から白い糸が出ていて、それを“引っ張って”と言う。促されるまま指で摘んで引き寄せると、案の定出てくる出てくる、小さな国旗の連なり。
「おおっ」
「すげーでしょ」
「よくあるやつ!」
「ふはっ!」
引っ張っても引っ張っても出てくるものに興奮してマナトくんを見上げたら、ニヤッと口角をあげた。
手元に突っかかりを感じて、少し強く引く。
するとマナトくんの握り拳が解かれて、国旗の紐の最後に、白い紙がくっついて出てきた。
「……なに、これ?」
折り畳まれた紙を開けてみれば、よく分かんない、おっきなMの字の真ん中にニコニコの顔があって、吹き出しから『I'm fine!』と喋っているように書かれた……何?
「俺のサイン。さっき決めてきた」
「ンンッ?!喋ってるよこの子」
「そうこいつ勝手に喋んの。一個めはミヅキにあげる」
勝手にって、マナトくんの字やんか。と笑ってしまう。
私が選んだBコースは予想外の“とっておき”だった。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時