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話を聞いていても、ただ時間をいたずらに消費するような感覚がしてくる。
繰り返し口から出てくるのは謝罪と後悔と、
“あの頃”がこの人にとってどれほどしんどいものだったかという言い訳。
(あの頃っていつやねん。私知らんし)
まるで私といずれかの時を 共有しているかのような物言いに呆れてしまう。
相手の首元のあたりを見て「はあ」とか「そうですか」とか繰り返している私に、見かねた日高さんが言う。
「中々、想像のつかないものですよね。19年という時の流れは」
「……、」
「ミヅキさんは……」
ふと日高さんがこちらを見て、「……ミヅキは」と言い直した。
目の前の人に呼ばれる“A”と
日高さんに呼ばれる“ミヅキ”に、随分と違いを感じる。
「とても素敵な子ですよ。出会えて本当に良かったと思っています」
「、そう、ですか……」
「随分とご自身を責めていらっしゃるようでしたが、あまりにも謝られてしまうと、どうもミヅキの今を否定されているようにも思えてしまって」
ハッとしたように大きく見開き 泳ぐ目から、決して逸らさない眼差し。
強く見えるようで、そこには日高さんらしい思いやりが滲む。
「……いや、本当もう、申し訳ない。僕はミヅキが可愛くて仕方なくて」
「つい口を挟んでしまいました」と、こんな時に へへへっ と頭をかきながら可愛らしく笑うのだ。そう、日高さんはこういう人で、素直に自分の気持ちを伝えながら 誰のことも寛容に受け入れようとする。
「ミヅキは野替さんからの謝罪を望んでる?」
「…………いいえ」
「うん。なら、そうですね、もう謝るのはこの辺にしましょう」
「………」
「野替さんにはぜひ今のミヅキを見てあげてほしいです」
キュッと唇を噛み締める。
父親という存在が初めからなかった私を、日高さんは“素敵な子”だという。
まるで自分のせいで私が苦労したかのように謝られるたびに、人生を否定されているような気分がしていた事を、日高さんの言葉で自覚させられた。
(幸せだったもん)
ママとお兄ちゃんと3人だけの家族で、充分幸せだった。
マナトくんの言葉が脳裏に蘇る。
私は、2人から沢山の愛情を注がれて育って来た。
足らないと思う隙もないくらい。
「……、」
スッと背筋を伸ばして顔を上げる。
目の前にいる人はやはり、小さく野暮ったい。
私はこの人がいないと生まれてこなかったんだなぁって思ったら、少し不思議な気分だ。
「私、自分を不幸だと思ったことはないですよ」
謝罪や言い訳ばかりの彼に、
私から出せる答えは今はただそれだけ。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時