ミュージックアワー2【BE:FIRST】

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10月23日 午前9時40分





BMSG創設時からTHE FIRST終結まで使用されていた旧オフィスは、一軒家に事務所を移した今、間借り契約は今月末で終了するという。




「こうも物がないと寒いねぇ」

「てかもうすっかり秋ですね」




ブラインドの隙間から日光がわずかに差し込むだけの薄暗い部屋の電気をつけながら、日高さんを先頭に部屋に入る。

私の後に続いていたモモヨさんが、「あったかい飲み物で正解だった」と言った。





備え付けのテーブルとチェア以外無くなった部屋。
日高さんは自分の隣の椅子に手をかけて、「ミヅキはここおいで」と呼びかけた。




「僕、実は少し緊張してる」

「えっ 日高さんが？」

「そう。先方に僕はどう見えるかなって」




金髪をセットして、おそらくオーダーメイドの艶やかなスーツを着た日高さんがそんなことを言うから驚いた。




「……格好いい人に、見えるかと」

「あははっ！そうか。覇気はあるかな？」

「は、覇気ですか……？」




なにを言い出すのかなと言葉を詰まらせる。
ここ最近ONE PIECEの話をよくするメンバーの影響か、眼光だけで周りを気絶させている日高さんが一瞬脳裏に浮かんだ。……ライブ中なら出来てしまいそうなのが、妙にリアルだ。

くだらない事を考えている私の横で、両手指を組んで机の上に乗せていた日高さんは、スッと息を深く吸って背筋を伸ばす。




「今の僕が、

　…………少しでも強く見えたら良いなって思う」




緊張しているわりに落ち着いた声の、深く考えていた事を口にするような言葉。




「 俺の強さは、ミヅキの強さになるでしょう 」




しっかりと私を見て開かれた瞳。

“彼には私の気持ちを理解できないだろう”と私が思う一方で、きっとずっと何かを考えて、その考えの中心にいつも私を想って……今ここに居てくれている。



部屋の隅にいたモモヨさんが、「着いたみたいなので迎えに行ってきますね」と言ってオフィスを出て行った。


途端に妙な感覚が身体を駆け巡る。




「私もちょっと震えてます」

「……よし。じゃあちょっと、おまじないをしようか」




おまじない？と私が疑問符を口にする前に、日高さんが私の椅子の肘掛けを押して、キャスターが回って向かい合う形になった。


グッと近づいて来る日高さんの身体。
強く強く抱きしめられたと気が付いたのは、彼の手のひらが私の背中をポンっと叩いて来た時。




「飾らずにいつものミヅキでいよう」




どうしようもなく温かい力。
私は自分で掴んだ居場所の中で、この手に守られている。



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