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俺たちが出会った最初の頃、ミヅキは『ショウタくんみたいなお兄ちゃんが欲しい』と言っていた。
オーディションを進める中で彼女のバックボーンを知って、その言葉の裏に隠された真意を知ったとき、ミヅキにとってショウタくんは随分早い段階で特別な存在になったんだって……そう気付いたんだよな。
「安心かぁ……確かになぁ……、」
何か思い当たる節があるような間。
そんなつもりなかったけど、
俺は今もしかして、ミヅキの何かに触れていないか。
「……………………なんかあった?」
ほとんど直感に近い問いかけが口を吐く。
勘違いだったらそれで良いと思う俺とは裏腹に、ミヅキは言い淀んで目を伏せる。
「……、」
「…………」
彼女が口を開くまでの無言を、俺はただずっと耐えることしかできない。
もう誤魔化すことは出来ないくらいの間を置いてやっと、小さな息が漏れた。
「……最近ちょっと、考えることが多くて
常に周りに人が居るのが少しだけ、……」
続きの言葉を明確にしなかったけど、ミヅキは“1人になりたかった”って言いたいんだと思う。
そう、だから今日、
練習終わりも逃げるように出て行ったの?
ミヅキの横顔に心の中でそっと、疑問を投げた。
スタジオを出ていく背中を捕まえたくて、ソウタくんを誤魔化しつつ廊下で待ち伏せしてたなんて言ったら、引かれそうだ。
「でも、ショウタくんに会ったら、会えて良かったぁって思ったんよ。理由はないんだけどね」
その理由のなさが、どうにもならない俺とショウタくんの差なんだよなぁ。
でも今はその差を嘆くより、知らずのうちにミヅキの中に生まれていた“考え事”を、どうにかして知りたいと思う。そんなエゴが膨らんでいく。
「……考え事はもう平気なの?」
「、…………へいき、ではないかなぁ。現在進行形」
「仕事のこと?」
「ううん。めっちゃプライベート」
学校のことかな?
文化祭の写真を見せてくれたし、友達とは仲良くやってそう。
受験のこと?
ジュノンくんとたまに話しているのを聞いてるけど、推薦の準備は大変そうだ。
男関係だったらショックだなぁ。
「…………仕事のことじゃないなら、話してみれば?」
ミヅキの視線がゆっくりとこちらを向く。
ずっと君の横顔を見てた俺の目と、揺らいだおっきな黒が合わさった。
「当事者じゃないから力になるとか言えないけど、話聞くことはできるよ」
「…………、」
「今じゃなくても、いつでも」
いつでもって言ったのは、わずかに残った俺の良心。
ミヅキに提示できたほんの小さな逃げ道だ。
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befirst(プロフ) - あらしのよるに大好きすぎてなんっっかいも読み返しています!! (11月27日 20時) (レス) id: 73aa1688da (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» 書き手の私、超無意識に寿司桶空っぽにしておりました!たしかに、変わらず食欲旺盛で可愛い笑 おばあちゃんもおばさんも、きっとママから旦那がどんな人なのかは聞いていなかったんですよね…まさに神(読み手)のみぞ知る事実なのです、悔しいことに。 (5月17日 22時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - なかなかの内容なのに、きっちり寿司桶を空っぽにするモンさんを、愛してやまないっ(◕દ◕)そういえば、おばあちゃんも、おばさんも、生きてるとは言ってなかったなぁと、解説を見て思いました!天才っ!! (5月17日 15時) (レス) @page50 id: be11c96dd8 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - まおさん» まおさんありがとうございます♡登場人物の気持ちが大きくなればなるほど、描写を書いては消して……この人こんなこと言わんよな、もっとらしい言葉はないかなと考えながら書いているので、そう言ってもらえて嬉しいです。 (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - とんトンさん» ネタバレ私は大歓迎ですよー♡笑 わー、見てくれてるって嬉しくなりますしね!リルアワとのリンクも楽しんでいただければ! (5月16日 11時) (レス) id: 2167f4606f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2023年4月7日 23時