独白 ページ11
.
「ちょっと心配になっただけだよ。」
親指の腹で頬を撫でられ、何かを覚悟するようにぎゅっと目を瞑る。
...けれど構えた筈の衝撃は来ないまま。
二本の腕は、何事もなかったかのように私の身体から離れて行った。
「最近ずっと働き詰だったからさ。疲れてるんじゃないかと思って。」
ふわりと笑うその声色は、確かに私を守ってくれるそのトーンで。
同一人物であるはずなのに、顔がこわばるそんな恐怖が何処かに消えてしまった様な、そんな気がした。それを追い払ってくれたのは、今目の前にいる彼の様な、そんな気がしてしまったのだ。
「勝手に入ってごめんね。そうだ、温かいココアでも」
「あの、」
びっくりした。
そんな事、いえるはずはなかった。
けれどどうしてもその優しい手を欲してしまう私が居る。
怯えていた筈のその手を自ら引き寄せて、彼の制服の袖口をぎゅっと握った。
甘えて、受け止めて。
そう求めるように顔を見上げれば、ほんの一瞬だけ、呆気にとられた様な表情をした彼がいた。
けれどすぐさまいつも通りの柔らかい空気を纏い、
「触れてもいいかな。」
そんな風に尋ねてきた。
こくり、と頷けば、先ほどとは全く違う手つきで抱きしめられる。
ワイシャツからは、陽だまりの様な匂いがした。睡魔に襲われながら芝生で寝転んで読書でもするような、そんな何処か懐かしい匂い。
「....樹状細胞さん。」
「なにかな。」
「私、最近笑えているでしょうか。」
しばらくの、沈黙。
ほんの少しだけ背中に回る腕の力が強くなった。
「そうだね。良く笑っているよ。」
悔しいくらいにね。
聞き取れるかどうかぎりぎりの声量で、零れた最後の一言。
何故彼がそんな事を言うのかわからなかったけれど、特に質問するのはやめておいた。
「あなたを愛してます.....、か。」
「何がですか？」
「いや。こっちの話。」
またしても私に向けてではない、独白の様な言葉がふっと浮かんでは消える。
そういえば赤いバラの花言葉。
あれはなんだったか。
.
終わり
ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)
←豹変
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 28人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：るーこ | 作成日時：2019年3月26日 1時
