【短編集】Imitation (ページ36)

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# 手と手で Ren Meguro ページ36

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私は、耳が聴こえない。

音がない世界を生き続けて早二十数年。

音が聴こえなくて大変だなと感じることはあるけど

聴こえる人と同じように、幸せに暮らしてる。

ほら、今だって

“ いつものアイスコーヒーお願いします！”

いつも、平日のおやつ時にやってくる彼。

私がレジにいるのを見ると嬉しそうにメモを見せてくる。

そして、商品を渡し会計も済ませると

笑顔で「ありがとう」という手話をして席に座る。

〈今日も来てるね、あの子〉

『大学生、とかかな？』

〈多分 Aと同い歳くらいじゃない？〉

見るからに好青年で背も高くて同い歳くらいの男性。

目が合うとニコッと微笑んでくれることもあって

『好き』と感じるのにそう時間はかからなかった。

同じく耳の聴こえない同僚と手話で会話をする。

彼女は、私が彼に惹かれていることを知っていて

私のこの恋を応援してくれている。

〈連絡先とか、聞いてみれば？〉

『でもどうやって？』

〈手話とか？〉

『わからなくない？』

〈じゃあ、メモ？〉

『接客中にそんなことできないよ！』

『それに、どう思われてるか分からないし...... 』

〈でもアタックする価値はありそうじゃない？〉

ほら、と同僚が指した方を見ると

噂の彼が小首を傾げて私たちの会話を見ていた。

解読したくても簡単には解読できない

私たちの手話に興味津々といった様子だった。

その後、私たちの視線に気づいて

慌てて視線を手元のアイスコーヒーにもどす彼。

『 ......なさそうじゃない？』

〈 Aはわかってないなぁ！〉

そう言ってニコニコ自分の持ち場に戻る同僚。

なんでよ。目が合っても逸らされるし、

私は彼にとってただの店員ってだけなのに。

こんなの、恋に発展するはずない。

そう、思ってた。

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