琴葉奇譚【文／ス／ト×ボ／イ／ス／ロ／イ／ド】 (ページ4)

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三話ページ4

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　違和感の原因を突き止める為に、体内に内蔵された録音機――本当はこんなものに使ってはいけないのだけれど――を、小さな音量で流した。
　梯子を登る木の軋む音が聞こえたあと、声が聞こえた。

――起きて、ほらほら早く
――……ん、後十年……
――何？私に姉になってほしいの？
――違……

「……あ」
　そうか。いつもなら避ける話題を、茜が言っていたからか。
　それについては納得したが、しかし、と考えるのを続ける。朝で寝惚けていたとは言え、その話題をネタで返すとは私もまだまだ知能が足りない。
「どうしたん、葵？お腹痛いんか？」
　いつの間にかパンを口に運ぶ手が止まっていたようで、茜が心配そうに顔を覗き込んでくる。パンを一旦皿に置き、珈琲を飲む間を取った。そして、まだ心配そうな茜に笑顔を向けて口を開いた。
「いやあ、なんでもないよ。ただ、考え事をしてただけー」
　戯(おど)けた様に言うと、茜はぽかんと口を開け、笑った。
「はっはっはっ！で、何考えてたん？かなり難しそうな顔しとったけど」
「ん？昨日のアイス、私の何処置いたっけなあ、って」
「……それは知らんなあ。てか、葵ってそんな食い意地張っとったっけ？」
　私に人差し指を指し、口角を上げ、完全にいじる体制になった。なんでよと口を尖らせながら、向けられた人差し指を下げさせる。
「や、そんな世界の真理を考えるような顔してて聞いたらアイスの事でしたーってどう考えても食に興味があるんやろなあって」
　茜は一息で言い切ると、何故か急いであと一口だけだった残りのパンを食べ、コーヒーを啜る。私も茜に倣い、返事もせずにパンを噛じった。

「おはようさんですー！」
「おはようございます！」
　事務所に入り、ノイズ混じりの声が響いた。驚いて喉に手を当てる。
「あー、あ～、あー、んー？」
　声を出してみるけれど、さっきのノイズは聞こえない。――当たり前だ。声も動作も人間に近付くように、何年も研究されているのだから。……じゃあ、何が？他の人達は部屋が違うし、もちろん事務所の人が出したものではない。
　消去法で残ってしまった隣の茜を恐る恐る見ると、心配そうな顔をしていたが、私と目が合うとそれは一気にからかうものへと変化した。
「ど、どーしたんや葵、変な声出して！そう言うんはうちのジョブやろ！」
「や、そういうのじゃ、」
　言葉は途中で途切れ、目の前が、まるでコンセントを抜いたテレビの様に黒く染まった。

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