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「なあ角名」
葬式場の前でに話しかけてきたのは治だった。口数が少ないー侑に向けては例外かも知れないが、伺うようにして俺のそばに寄ってきた。大丈夫かと、そう心配しているように見えた。大丈夫だよ、俺がそう返そうとした時、治は口を開いた。
「お前のせいやない、北さんが死んだ時からこれはもう決まったった事や。角名お前、葬式の時のAさんの言葉、聞いとらんかったやろ。」
諭すような喋り方はどうにも治には合っていなかった。
「Aさんな、『私1人じゃ何にも出来ないから、会いにいくね、私のこと、ちゃんと叱ってね』って言うとった」
困ったように笑う治は、嫌に絵になっていた。俺はどんな顔をしているのか、分からなかった。だけど、普段余り動かす事のない口周りの筋肉を動かした。
「アランくんらな、『スーツ洗うの間に合うかな』何て喋っとった。不謹慎よなあ」
いつの間にか横に立っていた侑は渇いた笑みをこぼした。でもそれは1足す1が2になるくらい俺らにとって至極当然の事だった。Aさんを引き留められる人はもうこの世に居なかったのだから。
「まあ、結局お前の1週間は無駄骨やったんや。結末は変わらへん……はよ顔見てこいや。別事故死言うても綺麗なまんまやったわ」
言葉の節節がいつもより刺々しく聞こえるのも、口がよく回ることも、立て続けに先輩方死んでしまったショックからなのだろう。しかもそのうち1人は後追い。「そうだね」と短く返事をして建物の中に向かう。
芳名帳に名前を記そうとした俺は、自分の名前に右払いは高頻度で登場している事に気づいて一瞬手を止めた。字を綺麗に書こうと努めることももう無駄だと解ったのだが、芳名帳に書かれたその文字は変に整っていた。ああ、呪いか。俺は今後字を書くたびに思い出すのだ。あの最期の滑稽で美し過ぎる笑顔を。
「角名、お前字上手くなったな」
目敏くそう言った侑は故意か無意識なのか。
終わり
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作者名:定期テスト | 作成日時:2020年7月5日 20時