◇ ページ10
周りを見渡す。
いつも部活に来るはずのAが今日は何故だか見当たらない。
『リョーマくん!頑張って!!』
あいつの声が脳で再生される。
なんだか心配になったから先輩達の目を盗んで探すことにした。
廊下を歩いているとあいつの横顔が目に入る。
Aは窓の外を眺めてボーッとしているようだった。そんなA目線の先をみるとそこには竜崎の姿があった。
再度彼女に目を向けるとその顔は今にも泣きそうだった。
「桜乃ちゃん…」
そう呟く彼女は今にも消えそうだった。
その瞬間嫌な予感が浮かぶ。
Aはまだ竜崎桜乃のことが…
汗が頬を伝う。
もしも彼女が竜崎に近づいてしまえば俺の今までやってきたこと全てが無駄になってしまう。そんなことさせる訳にはいかない。
「A!」
彼女を呼ぶと我に返ったようにこちらを向く。そして寂しそうに「どうしたの?」と笑うのだった。
どうしてそんなに辛そうな顔をするのか。
そんなことはもう分かっている。
これ以上彼女の目に竜崎を映すわけにはいかない。
これ以上竜崎に邪魔なんかさせない。
これ以上はこれ以上は…
「リョーマくん?」
Aが俺の名前を呼ぶ。
目の前の彼女をみれば心配そうな表情をした。
「大丈夫?」
そうやって優しく俺の手をとる。
大丈夫。いまAがみているのは俺だから。
まだ大丈夫。
「あんたが遅かったからちょっと心配だっただけ…はやく部活いこ?」
そう言えばAは微笑みながら「うん!ありがとう」といい、俺の後ろをついてくる。
あー、早く何とかしなきゃ。
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作者名:みみみみみ | 作成日時:2019年4月14日 23時