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「つ、つまら、つまらない、話なんですけど」
ひどく声が震えてしまっている。これを言ってしまうのがこわくて、けれど話さずにはいられなかった。
「わ、私の、話を、この前、させてもらったじゃないですか」
帝国学園と雷門学園が戦った時の話。私が、記憶喪失であることと、兄に拾われたことを話しただろう。
「記憶喪失、で、何も分からなくっ、て。それで、」
彼は私の背中をゆっくりと撫でた。
「落ち着け。聞いている、ゆっくりでいい」
手はどこまでも優しい。はふはふと息をしながらも、ゆっくりと呼吸を整えていく。
顔を上げると、目を細めてこちらを見ている鬼道さんがいた。震える手で布団を握っていた片手の上に、手が添えられる。ドキドキはしなかった。ただ、迷子の時に大人に手を引かれるような安心感があった。
‥‥情けない、って普段なら思うのだろうけど、身体が弱っていて案外心も弱っていたらしい。私はその手に縋り付いてしまった。
「じ、実は、記憶を失くす前のこと、分からないってわけじゃないんです」
「‥‥そうなのか」
落ち着いた。ゆっくりと、言葉を紡いでいく。彼の目を見て。大丈夫、この人はここにいる。手の温もりが教えてくれる。
「別人格、っていうか。私の記憶を持った人と、頭の中で会話できる時が、あるんですよ」
目を見開かれた。表情がわかりやすいなあ、この状態だと。
「その子は、私とは全然違うんです。私なんかよりもずっと自信家で、落ち着いていて、格好良くて。きっと、頭も良いし、色んな知識も持ってる」
「そう、か」
どう言えば良いのか分からなさそうだった。当然だろう、貴方が知らない私の話なのだから。
「ただ、」
きゅっと彼の手を握る力が強くなる。
「私には、兄がいたと思うんです」
兄さんじゃない、兄さんが。
彼はそれだけでどういうことなのかすぐに分かったらしい。言葉をなくした。
「他にも、思い出したら何か変わるのかもしれない。今、私は守兄さんのことが大切です。でも、思い出したら、変わってしまうんでしょうか。私は、友達のことも、皆のことも、大切なのに、大切なのに、思い出したら、私は」
俯きそうになったが、泣かないように必死に堪えて、彼の目をまっすぐに見た。
「思い出してしまった時に、今持ってるこの大切な感情達を無くしてしまうことが、何よりこわい」
それが、私にとっての一番の恐怖だった。
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黒牡丹(プロフ) - 焔さん» 好みと言っていただけて本当に嬉しかったです。書けないことになれば、とにかく頭の中に思い描いていたネタだけでも箇条書きにしてでも投稿はするつもりです。嬉しく優しいお言葉、本当にありがとうございます。 (2020年7月23日 12時) (
レス) id: 51616291f0 (このIDを非表示/違反報告)
焔 - 黒牡丹さん» レスありがとうございます。黒牡丹様が帰ってきてくださって、今の心境を教えてくださっただけでも嬉しいです。ありがとうございます。 (2020年7月14日 22時) (レス) id: 3ce071c9ce (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 焔さん» コメントありがとうございます。お話の続きを私自身が書くのは無理だと悟ってしまいました、申し訳ありません。なんとかして、彼女の物語を完結させたいと思います。どうか、よろしくお願いします。 (2020年7月13日 12時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 夜さん» コメントありがとうございます。何度もコメントしてくださっていたのに、本当に申し訳ありません。私の手から離れるかもしれませんが、それでも一度思い描いた物語として皆様の元に届けたいと思っています。読んで頂いて、本当にありがとうございます。 (2020年7月13日 12時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
黒牡丹(プロフ) - 翡翠さん» コメントありがとうございます。こんな形でのコメント返信申し訳ありません。せめて、物語として皆様の目に触れるようにしたいと思います。 (2020年7月13日 12時) (レス) id: cd13c32878 (このIDを非表示/違反報告)
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