第103話 夢中 ページ9
翌日、「ユミルの民保護団体」の演説を聞きに行った。
この団体は全世界のユミルの民への援助を訴える団体。だが、パラディ島のエルディア人を島の悪魔と罵り、我々が期待していたものとは違っていた。
その演説中、またエレンがどこかに姿を消した。今度は全く見つけることができずに何日も過ぎていく。
それからは、エレンを探しつつ各々が自由に過ごすようになった。
『キヨミさん、車を作っている工場がどこにあるかご存知ですか？製造過程を見てみたいです』
「工場地帯は隣の街にございますが、ここからはかなり離れた場所になります」
『そうなんですか…』
「フフ、さすがは技術者様、車が気になるようですね。アズマビトが所有する車でよければぜひ自由にご覧ください」
屋敷の庭にある蔵の中に黒い車が置いてあった。近づいて車の中を覗いてみる。
機関車とはまた違う造りでどういう仕組みで動いているのかわからない。
そこで、車を運転できるというオニャンコポンが丁寧に教えてくれた。
『すごいなぁ…やっぱり車を買って分解したい。子どもじゃ買えないって言われたけど、私って子どもに見える？』
「うーん、身長…かな？小柄だからどうしても子どもに見えちゃうのかもね」
『もう19歳なんだけど、子どもじゃないよ』
「ハハハ、若く見られるのは良いことだよ」
車の話をしているAとオニャンコポンを、ハンジとリヴァイは少し離れた場所から眺めていた。
「19歳か…Aと出会ってもう10年になるのか。時の流れは早いね」
「ああ、そうだな」
「あんなに幼かったのに、今じゃ立派な一人の女性だよ。エルヴィンが見たら泣いちゃうね、きっと」
「中身はガキのままだがな。鈍感で機械好きは変わらねぇ」
「そこがAの良いところじゃないか。あんなに純粋な子、なかなかいないよ」
「別に悪いなんて言ってねぇだろ。純粋すぎて危ない部分はあるがな」
「パラディ島では一番の技術者として有名人、マーレの工兵やヒィズルからも若いのに優秀だって注目されてる。一人くらいAの魅力に気付いちゃう人が出てくるかもね」
「…だからどうした」
「鈍感なAにははっきり言わないと伝わらない。ぼやぼやしてたら誰かに取られちゃうよ？」
ハンジの言葉に返事はない。
昔と変わらぬ好奇心に満ちた目を輝かせながら車に夢中になっているA。その姿をリヴァイは静かに見つめていた。
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作者名：わたがし | 作成日時：2023年12月14日 17時
