第141話 記憶 ページ47
ここは調査兵団本部から少し離れた場所にある工房。技術班が兵器の開発や改良を行なっている場所だ。
工房の隅の席。いつもの場所で、隣に座る人物に話しかけた。
『エレンはどうして地鳴らしで世界を平らにしたいの？何もない世界が、エレンにとっての自由なの？』
「ああ、そうなんだ」
エレンはポツリと答えた。
「壁の外は、アルミンの本で読んだ世界と違っていた。人がいると知ってがっかりしたんだ」
『じゃあ、私と逆だね。私は壁の外に、壁内にはない高度な技術があると知って感動したよ』
「なんかAらしいな」
ハハッと笑ってエレンは机に頬杖をつき、横目で私を見た。
「Aはさ、鈍感っていうより自分の気持ちに素直なんだよな」
『素直すぎて空気読めないこと言って、みんなにいっぱい迷惑かけてたよね。ごめん』
「いや、それがいい。素直に言うことって、簡単そうで実は難しいんだよな。大人になるにつれて特に」
『そうなの？』
「ああ、俺もAみたいに素直になれてたらなぁ…」
エレンは
『それ、持っててくれたの？』
「あの日からずっと持ってる。俺も本当はみんなと一緒にいたいんだ。みんなが…大好きなんだ…！」
眉根を寄せて下唇をぐっと噛み締めるエレン。写真を見つめる翠色の瞳はだんだんと潤んでいく。
これがエレンの素直な気持ちだ。
「俺が勝手に言った約束、果たしてくれてありがとな。Aは兵長と長生きしろよ」
『うん…』
「それから、俺が潰しちまった文明も取り戻してくれ」
『せっかく地鳴らしで無くしたのに、また歴史が繰り返されるよ？』
「そうだ。争いはなくならない。だからせめて、Aが生きてる間は武器のない世界をつくってほしい」
『そんなこと、できるかな…？』
「Aならできる。だってAは、調査兵団の天才技術者だからな」
もう時間だと言うエレン。ここでの記憶は消されるが、全てが終わった時にまた思い出すらしい。
エレンと会うのは多分これが最後。記憶が消える前に言っておきたいことがある。素直な自分でも、まだ直接言ったことのない言葉だ。
『エレン！私と友達になってくれて、ありがとう！』
目の下と頬に筋が出てきたエレンはくしゃりと顔を綻ばせた。
ああ、やっと、昔のエレンに戻ってくれた。
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作者名：わたがし | 作成日時：2023年12月14日 17時
