第98話 食事 ページ4
体調が戻ってから数ヶ月後、壁内と港を繋ぐ鉄道が完成した。
そして、マーレへの潜入調査の計画が固まった。オニャンコポンとアズマビトがマーレまでの手筈を整えてくれるらしい。
マーレへ向かう数日前、テクトンから食事に行こうと誘われた。
連れて来られたのは同じマーレ人捕虜のニコロが働いているレストラン。
『ここって、憲兵とか兵団の上層部しか来られない場所なんじゃ…』
「大丈夫だ。ニコロとは友達だから特別に許可は貰ってる」
席に案内されしばらくすると料理が運ばれてきた。
マーレ料理は食べたことがないが、ニコロの作る料理は天才的に美味しいとサシャが言っていた。
ナイフで切り分け一口食べてみた。初めての食感に初めての味わい。美味しい。これが海の幸というものか。
次々と運ばれてくる料理に食べきれるか不安になりながらも、マーレ料理に舌鼓を打つ。
料理に合うからと、給仕の人がマーレ産のワインを勧めてきたが、未成年だからと言って断った。
『どうして、ここに誘ってくれたんですか？マーレ料理ならこれから嫌というほど食べると思います』
「お前最近忙しそうだったし、それに…もうすぐこの島を出るだろ？その前に言っておきたいことがあるんだ」
ナイフとフォークを置き、テクトンはまっすぐに私を見つめた。
「A、お前が好きだ」
2人しかいない静かな部屋にテクトンの声が響く。
「この島は悪魔の島だって教えられてきたから、俺は思いもしなかったんだ。お前みたいな手の綺麗な奴がいることに」
フォークを置いて自分の手のひらを見てみる。
『確かに怪我しても治るのが早いし、傷跡は少ない方だと思います』
「そういう意味じゃねぇよ」
テクトンは静かに言った。いつもなら唾を飛ばしそうな勢いでツッコむのに。
「どんなにすごいモン作っても島一番と言われても、お前は功績なんかいらねぇと言った。あのヒィズルにまで認められてんのに。お前は欲になんかまみれてねぇ、とても綺麗な技術者だ」
物を作る技術者にとって手は命の象徴。手が綺麗と言われることは、この界隈において最高の褒め言葉である。
「俺は他より優れた物を作って優秀だと認められたくて技術者を続けてきた。周りだってそんな奴らばっかりだ。なのに悪魔と呼ばれるエルディア人に、こんなにも純粋に技術を楽しんでいる人がいることに驚いた。だから俺は、お前に惚れたんだ」
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作者名：わたがし | 作成日時：2023年12月14日 17時
