第117話 願望 ページ23
微量だが、私は脊髄液入りワインを口にしていた。
わずかでも体内に入ると巨人化するというジークの発言が正しいなら、巨人にならなかったのはやはり私がアッカーマンだったからなのだろう。
それなら、自分が獣やエレンの巨人を継承するというのは、そもそも無理な話だったのか。
『兵長はもう戦えないですか？』
「前と同じようには動けないだろうね。本人は無理をしてでも戦いそうだけど」
右目は失明、右手の指2本欠損、生きているだけでも不思議なくらいの大怪我。もうかつてのように最強ではなくなってしまったのか。
『……この戦いは、いつになったら終わるんですか…？』
「わからない。私たちは虐殺を止めたいだけだけど、島のことを考えるとイェーガー派の言い分が正しいのかもね」
『…早く、戻りたいな…何も考えずに物作りしてた頃に……武器なんかじゃなくて、もっと人が喜ぶものを作りたい…』
自分が開発したもので誰かが死ぬなんてもううんざり。昔のように、ただ作るのを楽しんでいた時代に戻りたい。
終わりの見えない戦いに深いため息が出る。
「お腹空いただろ？何か食糧が残ってないか探してくるよ」
ハンジは立ち上がり、項垂れる私の頭を撫でてからテントへと歩いていった。
荷台を作る手を止め、寝ているリヴァイの横に座る。左手を握り、包帯を巻かれたリヴァイの顔をじっと見つめた。
生きていてよかった。また大事な人を失うところだった。それも、ずっとそばにいたいと思うほど大好きな人を。
またリヴァイの笑顔が見たい。私の作ったもので笑ってほしい。そんな時代が早く来たらいいのに…
『………好き…』
自分にも聞こえないほど小さな声で呟き、リヴァイの手に唇を押し当てた。
ーーーーーーーーーー
「あんまりいいのなかったよ……って、あれ？」
ハンジが戻ってくると、そこにはリヴァイの手を握り寄り添って眠るAの姿があった。
「これが私の望んでいる未来なんだけどな…」
Aにも布団を掛け、リヴァイの足元に座った。
「エルヴィンが見たらどう思うだろうな…また結婚は早いとか言い出すのかな。いや、これを一番望んでいたのはエルヴィンだ。誰よりも喜ぶに決まってる」
ハンジはわずかに笑みを浮かべ、焚き火に薪を焚べた。
「さっさとくっついちゃえよ…」
パチパチと鳴る焚き火の音に紛れて、ハンジの声は静かな森に溶けていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 486人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：わたがし | 作成日時：2023年12月14日 17時
