第116話 一刀 ページ22
それは一瞬の出来事だった。
「え？何？何が起こった⁉︎」
後ろで見ていたハンジにも何が起きたのか理解できていない。
兵士とA、両者ともその場を動かず、弾がどこかに当たった様子もない。
見えたのは刃を一振りしたAの姿だけ。
「まさか…弾丸を切ったのか…⁉︎」
「ありえねぇだろ…そんなこと…」
信じられないと驚く兵士に静かに語りかける。
『その拳銃、誰が作ったと思ってるんですか？』
「…は？」
『何回も繰り返し実験して作ったからわかる。引き金を引いてから弾が出るまでの時間、弾の速さ、大きさ、形…全部知ってる』
武器の特徴や弱点、材質などの細かいところまで、自分が開発したからこそわかるものがある。
一か八かではあったが、弾丸を真っ二つに切るなんてことは私にとって不可能ではない。
もう一発撃とうとする兵士よりも先に動き出し、刃でその喉を掻き切った。
血を飛ばして倒れる兵士。その横に自分も膝をついて座り込み、手のひらで兵士の目を閉ざした。
生身の人間、それもかつての仲間を2人も殺した。さっきだって、巨人化した仲間を全員殺した。
自分がしてきたことに涙が出る。そんな私をハンジは優しく抱きしめてくれた。
「A、ありがとう。助けてくれて。見張りは私がやるから、Aはリヴァイのそばにいてやってくれ」
茂みに身を隠し、ハンジがやって来る追っ手を撃っていく。自分はずっとリヴァイの手を握り、脈があるのを確かめていた。
イェーガー派の追っ手がいなくなったところでキャンプ地に戻った。資材をかき集め、リヴァイを運ぶための荷台を組み立てていく。
手を動かしながら、針と糸でリヴァイの顔を縫っていくハンジにこれまで何があったのかを説明した。
「みんな巨人にされたけど、君たちだけ生き残った。リヴァイがこの怪我でまだ生きてるのも同じ理由だろうね。君たちがアッカーマンだからだ」
『巨人化しなかったのは、私も兵長もワインを飲んでいなかったからだと思います』
「いや、ワインのことでニコロから聞いたことがあるんだ。マーレに渡る前、Aはあのレストランに行ったんだって？」
『はい。でもそこでもワインは飲んでいません。』
「ああ、そうなんだが、その時に出された料理の一部にあのワインを使っていたらしいんだ」
作ったのはニコロではない別のマーレ人だったが、確実にワインを使ったとニコロは言っていたそうだ。
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作者名：わたがし | 作成日時：2023年12月14日 17時
