301 ページ1
『……鬱さんって変な名前ですよね』
「酷いなぁ……じゃあ大先生でええよ」
『似てる名前の人がいるんで嫌です』
「えぇ……？なんでや」
思い出した
あの日の事
幸せだった1ヶ月を、全部
綺麗な川の中に足を突っ込んでいつものように会話していた
大ちゃんと似ているその人はいつも月を見ていて
彼がいなくなってからは
いつも通りの日常がただ過ぎていった
変わったことといえば、大ちゃんが私に告白をしてきた事くらいか
いつもヘラヘラフラフラしてるのに、その時だけは少し真剣で
そんな顔に笑ったのを覚えている
心のどこかで無意識に、覚えてもいない鬱さんと彼を重ねていた自分がいたのかもしれない
「怪我、してへん？」
『んー…大丈夫』
「やっぱり、うち来おへん？」
『…もー、大ちゃんそんなに心配症だったっけ？』
「最近、笑わへんから…」
『え？』
「少し前まで、沢山笑っとたやん…ほら俺に会わせたい奴がおるー！とか言うてたやろ」
いつもモヤモヤしていた
大ちゃんの顔を見ると苦しくて
それでも彼は私の傍で笑っていてくれた
手を握って、ボロボロになる私を抱き締めてくれた
なのに
『大ちゃんなんて大嫌いっ……近づかないで！』
友達からの電話に酷くショックを受け
浮気にしても酷すぎで、頭の中が真っ白になった
追い掛けてくる彼を無視し家に帰り
父親が泣いた私を見て、怪しく微笑んだのは忘れられない
その日、いつもの行為が随分と長く感じ
窓から見える綺麗な満月に涙を流した
何もかも終わらせたくなった
生きることが、全てがどうでもよくなってしまっていて
泣きながら夜道を歩き続け
気がついた頃にはあの橋の上
大きな満月を見つめ
ゆっくりと足を前に踏み出そうとした
“俺は、生きてほしい”
誰のかわからない言葉が頭に響く
優しくて、暖かい言葉
蹲るように両膝を抱え、臆病者の自分に泣く事しか出来なくて
『……っ、……たい、…あ、いたい…』
誰だかわからない
その人に
『会いたい』
風が勢いよく吹きつけ、グラりと身体がよろけた
バッシャンと水が弾ける音
気がついた時には水の中で
呼吸が出来なくて苦しくなるが、それに足掻く必要は無いと目を閉じた
冷たい水に寒さは感じられない
何故か暖かくて
こんな死に方も悪くない
辛い人生だった
後悔ばかりの、クソみたいな人生
ただ
誰かとの約束は果たせそうにない
最後にもう一回……
その人に会いたかった
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 765人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
【w.r.w.r.d.!】お兄ちゃん、あのね【kn】
政略結婚とはいえ、許嫁の私より妹を優先するのですか？２【d!】
[魔cl!]暗黒よ、光によって満たされよ〜3〜
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美雨 - 小説で久しぶりに泣きました。最高の作品でした。大好きです。 (7月26日 18時) (
レス) id: c21832273f (このIDを非表示/違反報告)
はーな(プロフ) - 読み終わったあと感動で胸が締め付けられました。神作に出会えてよかったです!! (2022年9月2日 19時) (レス) @page27 id: e031897919 (このIDを非表示/違反報告)
海 - 泣けた。やばいですよもう。 (2022年8月14日 21時) (レス) @page27 id: 5511dd41f6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆい - 感動してめちゃめちゃ泣いた.....しかもこの小説私の誕生日に作られてる、運命かな......... (2022年7月19日 21時) (レス) @page27 id: 4f57f42090 (このIDを非表示/違反報告)
あたり(プロフ) - 最近この界隈に戻ってきて転生と外せかのシリーズを読み返していたのですがこれは読んだことなかったなと気付き読み始めたら…感動しました……外せかはガチで泣きましたけどこの作品も相当良かった……なんで当時読まなかったのかが不思議です…ありがとうございました (2022年4月17日 12時) (レス) @page27 id: f83fcb16fe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
