【QK】オダマキに反旗を (ページ3)

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Ⅲ.ko ページ3

夢を見た。明晰夢だと直ぐにわかった。なぜなら君が裸足で草原を駆け回っていたから。

俺たちの家の周りは田舎特有の緑の強い匂いがした。初めて都会に出た時、そこがあまりにも汚れた匂いで驚いたのを覚えている。そんな俺も、今じゃケロッとした顔で排気ガスを出す環境に悪い乗り物に乗るんだけど。

そんな故郷には大きな病院があった。当時は子どもだったから、名前は知らなかったけどその道順だけはハッキリと覚えてる。畦道を通ってアスファルトを踏みしめコンクリートの床を歩いた。スライド式の扉を開けると、君は白い部屋の白いベッドの上でも管を体中につけて笑っていた。いつも笑っていた。理由は俺がいるから。物心ついた時からずっとこの部屋と手術室を行き来する君には、俺が外界からの使いに見えたんだろう。そんな彼女の病名は知らない。一度だけ母に聞いたけど、ヒーローとカードゲームとDSとクイズに夢中な俺の脳みそじゃ漢字の羅列を覚えるのは難しかったようで覚えられなかった。出会いも知らない。きっと、覚えているのは今天国にいる彼女だけだ。

白いワンピースをはためかせる彼女の姿が目に眩しく映る。きっと俺の無意識の想像力じゃ、これが限界なんだろう。そもそも、記憶の中の彼女はずっと白に包まれていた。病院服以外の服を見たことは勿論無い。夢の中ではせめて好きな服を着させてやりたかったけど、目の前の彼女は俺の方が作り出した幻だということを思い出した。それに彼女は、自分の好きな色や服を知らずに終わっている。

彼女が大きな声で俺の名前を呼んだ。声は聞こえない。だって彼女の喉は産声をあげる以外にその役割を果たしたことがないのだから。でも夢だからか、俺の名前を呼んだことだけはしっかりと理解した。理解して、大きな声で返事をしようとした。一緒に遊ぼう、とあの時は拒否された言葉をもう一度かけようと思った。

「夢、かあ…」

夢だと知っていた。分かっていた。それでも覚めないでくれと願っていた。今日だけは、この清々しい朝を恨んだ。カーテンから差し込む光を、憎いと思った。

これを恋と呼ぶのか、俺は知らない。でも確かに、俺はあの子に生きていて欲しかった。それを愛と呼ぶのかは人によると思う。少なくとも、俺はこの感情をこの先も抱き続けることだけは確信していた。