33話 ページ33
「そんな連中、長ェ人生でもそうそう会えるもんじゃねェんだよ」
優しい笑顔がそこにある。拳を掲げておきながら、その顔立ちはそこはかとなくおおらかで寛容で、本当に包み込まれそうだった。
近藤の一言一言が心に染みて、温もりを産む。
「俺達ゃ幸せもんだぜ」
すっ、と目尻をもっと解く。
「そんな悪友を人生で二人も得たんだ」
廊下に尻餅をついたまま、いつもより気高い背中を見上げていた。ただ無言で。
「総悟。もし俺が曲がっちまった時は、」
歩んでゆくその背中を、見つめていた。ただ無言で。
「今度はお前が俺を殴ってくれよな」
「──惚れてたんですよ。本気で」
眠りこける地蔵に背中をあずけて、ポツリと洩らした。返事なんて無かったけれど、今はどうしても吐き出したかった。思いの丈というやつを。
「冷たくつっぱねられながら、それでもずっと
ようやくフッ切って幸せつかみかけたと思ったら」
「十四郎さ……」
「またアイツだ」
心の中にあった、やっぱりあった。
フッ切れてなんていなかった。
押し込んでいただけだった。
「何度、姉上の邪魔をしやがる。ひでー奴だ」
天井へと顔を向ける。全身の力を抜いて、両手を膝の上に投げ出した。
相変わらず背後では、親父臭いいびきが聞こえている。
「ひでー奴だよ。ホント…………」
わかってまさァ──そんな一言が、響く。
「俺の姉上がひでー奴に惚れるわきゃねーってこと位」
ホントは……わかってた。
「いつ死ぬともしれねー身で、野郎が姉上を受け入れるわきゃねーってこと位」
わかってた。
「野郎が姉上の幸せを思って拒絶してたこと位」
わかってた。
「野郎も姉上の幸せを願ってること位」
わかってたんですよ。「俺ァ」
「……でも。癪じゃないですか」
自分を護ろうと、一人で戦闘の渦へ乗り込む野郎
「野郎は、気に食わねェ」
「気に食わねェ野郎のままでいいんでィ」
そう言って穏やかに、微笑んだ。
よいしょと少しは軽くなった腰を上げ、上着を手に取る。
「旦那。長ェ話きいてくれてありがとうございやした」
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作者名：らんちゃん | 作成日時：2021年1月24日 8時
