31話 ページ31
「近藤さん。くま」
「……メイクだコレは」
そいっと目尻を指さした総悟に、真っ黒に染まった涙袋を堂々と構えた近藤。
ガーゴガーゴとやかましいいびきをたてる奴を目にすると、「いいなこいつはノー天気で。つーかなんでいるの」と呆れたように笑った。
「トシと派手にやり合ったらしいな」
言って腕を組んだ近藤に、唇をすぼめた。
「……今は野郎の話はやめてくだせェ」
「詳しくは教えてくれんかったがな。言っていたぞ。今のお前には負ける気がせんと」
「やめろって言ってるんでェい!!」
「なんだってんだ、どいつもこいつも二言目にはトシ。トシって」
「肝心の野郎はどーしたィ。姉上がこんなんだってのに姿も見せねェ」
ギョロり、光を削ぎ落とした真っ赤な瞳を、燃え盛る瞳を近藤に向ける。
「昔振った女が死のうがしったこっちゃねーってかィ。さすがにモテる男は違うときた」
沸騰するようなそれに、近藤は瞼まで閉じて口角を緩めた。
「やっぱりお前、疲れてるみてーだな。寝ろ」
今度は総悟が、静寂を含む番だった。
「軽蔑しましたか」
絞り出された言葉は答えを欲していた。
けれど近藤は、
「……寝ろ」
たったそれだけで返す。
「邪魔ですかィ俺は。土方さんと違って」
──近藤の瞼が、かっぴらく。
ガシッ、と総悟の胸ぐらを掴み上げた。
「近藤さん!!」
そんなところへ大声と共に走ってきたのは、未だにアフロを崩さない山崎退だった。
「大変なんです! 土方さんがァァ!」
真っ青な面で必死に駆けて来るその様子に、近藤も総悟もいがみ合いをやめた。互いに距離を置き、脂汗ダラダラの山崎を見やる。
「どうした、トシに何かあったのか」
「そ、それが……Aさんと二人で取引中の転海屋のところに乗り込んで!!」
ぐわっ、と近藤の手がその胸ぐらへ伸びた。
「てめェなんでその件今まで黙ってた!!」
「すいません!! 土方さんにかたく口を止められていたんです!!」
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作者名:らんちゃん | 作成日時:2021年1月24日 8時