ロマンスな出会い【梅原裕一郎】 (ページ11)

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4月から新しいマネージャーが就いた。新卒の女で、声優に憧れてマネージャーになりました系の人間かと思ったら、面接を受けまくって合格通知の返事を返し忘れ、唯一残ったこの会社に就職したという意味の分からない人だった。

必要以上に喋らない(怖がられてる)、電話したらいつでも迎えに来てくれる(便利)な存在でとても楽に思って仕事もしやすい。

ひょろっと男子遅刻事件の時はさすがに怒られると思ったけど、その時も必要なこと以外は特に何も話さなかった。

周りの声優を見てると、マネージャーと親しげに話していたりする中、自分達はわりと静かでお互い干渉し合わない。ちょっと変な感じ。ここまで来ると嫌われてるんじゃないかと思ってくる。

だけど前に飯食わせろと家に乗り込んだことがあるから警戒はされてないはず。

最近は松野Aのことをなんて呼べばいいか悩んでいる。そんな時に『梅原さんって私の本名知ってますか？』と聞かれた。

もちろん知ってる。ただ呼ぶ機会がないだけ、そしてなんて呼べばいいか分からないだけ。

「梅ちゃん、Aちゃんとご飯行きたいんだけど来る？」
「あー…」

江口さんは松野AのことをAちゃんと呼ぶ。まるで自分のマネージャーかのように。

「い…」
「い？」
「行き…ます」
「やったね〜。AちゃんにLINEしとこ」
「LINE知ってるんですか？」
「うん。あれ、もしかして梅ちゃんLINE知らないの？」

そういえば電話番号以外何も知らない。
用があれば電話したら済む話だと思っていた。

「梅ちゃんって意外とそういう感じなんだね…」
「そういう感じってなんだよ」
「怖い！」

アフレコが終わって廊下で待っててくれたから、そのまま合流して車に乗った。自宅に着いて車を降りようと思ったけど動きを止めた。

『梅原さん？どうしたんですか？忘れ物とか？』
「…連絡先」
『連絡先？電話番号ですか？』
「LINE。夜中に用事あったら寝てるとこ悪いから」
『…ああ！LINE！そういえば知らなかったですね』
「もう半年経ってるのにな」
『ほんとですね。忘れてた』

お互いのLINEを交換して追加した。

A
という名前と、これはどこか分からないけど風景のアイコンだった。

車から降りて家に入った。追加して、まだ何もないトーク画面を眺める。これからどんな会話をするんだろうか。