抱き締めてください，太宰さん

番外編 if.4 ページ20

(どんだけ食べるんだこの人……)


彼女は心の中で呟いていた。


両手には今にも滾れ落ちそうな程沢山の駄菓子が載っている。


前を歩く乱歩もまた大量の駄菓子を抱え，嬉しそうに鼻歌を歌っている。


因みに一度，トイレに行ってくる，と云って死んだから，時間的には後少し余裕がある。


「ただいまー」
「失礼します」


乱歩に続き部屋に這入って来た彼女を見て，探偵社員が驚いたような顔をする。


「君，太宰さんの」


と，谷崎が云う。


「はい。その節はどうも」


「A?!」


太宰が，驚いたような声を出した。


「この名探偵さんに，買い物手伝えと云われたんですよ。
　ではこれで。
　失礼します」


呆気に取られる社員を放置して部屋を出ようとする彼女に，今度は太宰が声を掛けた。


「一寸待ってよ。私も行く」


「子供ですか？」


完全に蔑む様な眼で彼女に見られた太宰はショックを受けたみたいに固まった。



「あ……。
　なんかごめん」


でもそろそろ時間切れになってしまう。


彼女は結局太宰も放置して探偵社から出て行った。





窓から彼女が何処に行くのか見ていた乱歩は，太宰に指示を飛ばす。


「太宰。
　探偵社を出て右に曲がり，3番目の路地に這入れ」


四つん這いになり，子ども扱いされた事を子供の様に悲しんでいた太宰は，言葉の意味を理解し，直ぐに立ち上がって外に出た。

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