【川西賢志郎】キレイな心。 (ページ3)

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髪の毛とバッグページ3

「 ...ッ」

微かな声が彼女から聞こえた気がした。

その声の先を目線で追いかけると

「ッ！！」

俺は思わず口が開いた。だが声は出なかった。

女性のキレイな髪の毛先が束になって俺の斜め横の男性サラリーマンのバッグに引っかかっている。

満員電車のせいか男性は、気付くこともなく開いているドアの風を受けないようにこちらに背中を向けている。

女性の口元を見ると明らかに辛そうな表情をしていた。

「すいません！バッグに女性の髪が引っかかってます！」

俺はシーンとした電車に自分の声をできるだけ響かせた。

「え？！っ！！あかん！！」

男性は俺の声にすぐ反応してくれ、バッグのボタンを取った。

同時に女性の髪もバックから解けた。

「ごめんな！ねえちゃん！痛かったやろ？」

男性が女性に話しかける。

「いえ、そんなことないです。わざわざすみません。」

女性は下を向いたまま、キレイな声を発した。

プスッ。

途端にドアが閉まった。

キレイな声を聞いてしまったからなのか、俺はその女性が益々気になってしまう。

変わらず甘い香りもする。

シャンプーの匂いやろか。

こんなにいい香りのするシャンプーあんねんな。

包み込まれるような雰囲気にもう、自分の気持は自分自身に隠すことはできない。

にしてもこの子、どこから髪の毛引っかかってたんやろ。

痛い想いをしても言い出さない彼女の謙虚さに気付き、胸が痛くなった。

プスッ

ドアが開き、かれこれ俺が乗って７駅目。

「あの...ありがとうございました。」

ん？あのキレイな声が俺に向かっているような気がした。

振り返ると彼女がこちらを向いて一瞬微笑んだ。

そのときに初めて顔を見た。

キレイ。

その一言だ。

引き寄せられる間もなく彼女は

すぐに電車を降りた。

ヒールの音が響いたと思うとまたドアが閉まった。

一瞬の出来事だった。

彼女がいなくなった電車内は、まるでキレイさを失ったみたいで。

微かに彼女の甘い香りが少し残っていた。

明日もこの電車に乗ろう。

俺は、何かを感じた気がした。