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その夜、センラさんに呼ばれ私は彼の部屋にいた。
「俺、知ってたんよ。Aが香流の人間で、将軍家の一人娘やってこと。けど、うらたんもそうやけど、Aを失うのが怖くてこんな開戦ギリギリまで黙ってた。
……ほんまにごめん」
「気にしないでください。センラさんは何も悪くないです」
センラさんの部屋で立っている私とは対照的に、センラさんは申し訳なさそうに声を震わせながら縁側で胡座をかく。すると彼は、重そうに腰をあげると私の元へ来て私の体を優しく抱きしめた。
「センラさん…っ、」
「明日から始まる戦で、死んでしまうかもしれへん。やから少しだけこうさせて」
私の腰に回されるその腕で、明日から何人の人間を倒していくのだろうか。
拒絶する気は起きなかった。
ただ、
「死んだ時に後悔せんように」
その一言が悲しかった。
私を守ってくれた彼が、彼らが、死んでしまうかもしれないなんて悲しくて寂しくて苦しくて……
「そんなこと、言わないでください……!!」
気がついた時には、私の体はセンラさん共々畳の上へ体重を預けていた。
襟をキュッと掴んだまま、床に倒れ込み私がセンラさんに馬乗り状態。衝撃に備え瞑った目を開けた時に真っ先に飛び込んできた彼のお顔。
思考停止した後、慌てて体を起こそうとその襟から手を離……そうとしたが、センラさんの手によって掴まれてしまった私の手首。
「……なんなん?えらい積極的やん」
口の端を妖艶な笑みと共に少し上げ、私を見上げる。私はそんなことよりもセンラさんを押し倒してしまったことへの羞恥心と申し訳なさで頭がいっぱい。
「ごめんなさい!そんなつもりじゃっ、」
「俺が死んだらそんなに悲しんでくれるん?」
ゆっくりと伸びた手は、私の頬に添えられた。
頬を伝うように動いた親指には、雫。
……涙…?
「…嫌、です。死ぬなんて、言わないでください…!センラさんたちが死んだら、私は本当に独りになります…、私ばっかり都合がいいのはわかってます。ただもう少しだけ皆さんのお傍にいさせてください……」
必死に、声を絞り出した。
センラさんの、ふは、という短い笑い声。
そして、
「よく言えました。」
きゅっと口角を吊り上げて妖しく艶やかに微笑んだ彼の顔。
そしてぐるりと視界が反転した─────────
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透(プロフ) - 牡丹一華。@坂田家さん» はじめまして。ありがとうございます…!そのお言葉が一番の褒め言葉です( ; ; )ご期待に添えるよう執筆頑張りますね◎ぜひこれからも読んでくださると嬉しいです!よろしくお願い致します (2020年1月11日 8時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
牡丹一華。@坂田家 - 夜分遅くに失礼します。作品を読ませていただきました。この作品のページが進めば進むほどのめり込みました。続編も読ませていただきますね。 (2020年1月11日 4時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 舶(ハク)@月ノ山天文部さん» ありがとうございます!!書き方いろいろ工夫しながら書いてるので褒めてもらえてめちゃくちゃ嬉しいです(///)更新頑張りますね!これからもよろしくお願い致します!! (2019年5月16日 23時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - 誤字すみません……すごきではなくすごくです…… (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
舶(ハク)@月ノ山天文部(プロフ) - お話すごく好きです!うらたさんかっこいい……更新楽しみに待っています、頑張ってください!あと書き方すごき上手くてとても読みやすいです(*´ω`*) (2019年5月15日 1時) (レス) id: 7017cc79b6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:透 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時:2019年4月27日 0時