27 ページ31
「なるほど…」
A達は、森に報告をしている最中だ。芥川は他の仕事が入ったため、今ここにはいない。中也は立っており、Aは座っていて、エリスはAの隣で不安そうにしている。
「A、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。思ったより疲れちゃって…」
「無理もない。君はまだ完全な体力じゃない。送り出した私が言うのも何だが、やはり、行くべきではなかったね」
Aは下を向き、服をぎゅっと握る。色々な感情が混ざり、自分自身もよくわからない状態だ。沈黙が続くが、それを破ったのは扉が開いた音だ。
「紅葉姐さん…」
「A…!」
尾崎はAに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。Aも抱きしめ、体が小刻みに震え始め、鼻をすする音もしている。泣いているのだ。
「鴎外殿。Aは私が預かるぞ」
「…頼んだよ」
尾崎はAの肩を支えながら部屋を出ていった。
「首領…Aを利用する以外の方法はないのでしょうか。俺はアイツのあんなつらそうな顔を見たくは…」
「中也君。情けは無用だ」
「ですが…」
「
森の目に、中也は黙る。こう言われては、何も言えないからだ。その場に居づらくなり、頭を下げて早足で部屋を出た。
ー
あれから数時間。空はもう真っ暗になり、月がぼんやりと光っている。Aは眠れず、ベッドに腰掛けていた。
「…敦…」
本当に怖かった。あの虎の爪…もう一度引っかかれてしまえば、確実に死ぬ。その恐怖が、Aの心の隅々まで埋め尽くしていた。
「どうして…。私は、貴方に何を…?こんな傷を負わされるほどのことを、私は、貴方、にっ…!?」
再び涙が零れ、Aは強く目を擦る。さっきも擦ったため、瞼がひりひりした。が、気にせず擦る。
「…今夜は綺麗な夜空…。月が、綺麗だなぁ…」
ベッドから立ち上がり、窓越しに月を見上げる。満月だ。雲は全く掛かっておらず、とても美しく輝いている。
『僕は貴様の代わりに人虎を殺そうとしているのだ。なぜ止める。今、彼奴を殺さなければ、貴様が死ぬ』
芥川の言葉をふと思い出す。殺さなければ、死ぬ。
「もし、本当にそうなら…自分で…」
心臓が強く波打つ。体が熱い。Aはうめき声をあげる。しかしそれはすぐに叫びとなった。
「ガァァァァ!!!」
虎の、叫びに。
745人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
arena(プロフ) - あかりさん» 無言参加失礼しました…。読んでいただいて光栄です!ありがとうございます! (2018年1月29日 7時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - イベント参加ありがとうございます! すごい面白いです これからも頑張って下さい! (2018年1月29日 2時) (レス) id: 59dc504c48 (このIDを非表示/違反報告)
arena(プロフ) - ちゅうや大好きさん» ありがとうございます! (2018年1月28日 13時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅうや大好き - すごく面白いです (2018年1月28日 12時) (レス) id: 2184bb70c3 (このIDを非表示/違反報告)
arena(プロフ) - 瑠李さん» ありがとうございます。自分の作品の内容を忘れてしまう馬鹿ですが頑張ります!笑 (2018年1月22日 0時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:arena | 作成日時:2018年1月11日 21時