【HQ!】形勢逆転【及川徹】

36話 ページ36

はにかんだAちゃんを見たら、カッと熱を持った頬。

そうだ、彼女はまだ「俺に付き合ってもらっている」という理解なんだ。

自分の一方通行の想いだと信じ込んでいる。

けなげなのに、ひねくれてない彼女の真っ直ぐさに心が高鳴った。

『及川さん？』

及「あっ。ゴメン、帰ろうか。」

バッグを肩にひっかけ、ドアへと向かう。

あれ、何で俺、こんなにドキドキしてるんだろうってくらい、心臓がうるさかった。

2人で部室を出ると、外はもう暗くなっていた。

当たり前だが、部員の姿は一つもない。

及「そうだ、今日は俺が送ってくからね。」

後ろからついてくる彼女に声をかけると、焦ったように反論された。

『ダメですよ！及川さんは疲れてるんだし、早く帰って休まないと！』

及「傷心な及川さんはAちゃんと少しでも一緒にいたいんだけどな？」

『えっ…なんですかそれ。』

まるで自分といることに意味なんてない、というような彼女の返し。

及「いいから、大人しく送られてくれる？」

スッと瞳を細めて言えば、真っ赤になって頷くあたりが可愛い。

及「そう言えば、Aちゃんはいつから及川さんの事好きなの？」

『え？そうですね、1年の夏休みくらいです。』

及「へ？そうなんだ。てっきり入学した時に一目ぼれ―とかだと思ってた。」

『違いますよ。むしろ、入学したては及川さんの事嫌いでしたから。』

及「はっ…？」

彼女の言葉に思わず足を止めた。

そんな俺を見て、クスクスと笑っている。

及「冗談？」

『いいえ、本気です。』

及「うそ、ショック…」

『イケメンで人気があって、バレーも上手くて。へらへらしてて、なんだこいつって思ってました。』

及「事実じゃん！仕方ないでしょ！」

『ですよね。所謂妬みってやつです。』

及「そっそうなんだ…で、嫌いが好きになったきっかけは？」

『泣いてる及川さん見た時、あぁ。この人は泣けるくらい努力してる人なんだって思って―ー』

及「ちょちょ！ストップ！いつ見たの!?泣いてる及川さん！」

『多分、去年の今ぐらいじゃないですかね？もう遅い時間なのに、体育館に電気ついてて。覗いたら汗と涙でぐしゃぐしゃの及川さんがいました。』

確かに、白鳥沢に敗れたあの日、悔しくて1人で泣いた。

岩ちゃんにも見せない姿を…見られていたなんて。

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