標的31 堕ちてしまった日 ページ36
熱い、アツい、あつい、
燃えるように目が痛い。
それが研究者に植え付けられた眼だと気づけたのは、今しがたのことです。
私には熱さを感じるまでに、随分と長い歳月が感じられました。
それは時間にすればほんの一瞬でしょうが、私はあの世と呼べる場所で、六道をめぐり、死に物狂いで「六道輪廻」を習得しました。
そして自分がルカであることを認識する頃には、あたりは血まみれでした。
倒れ込んだ研究者たち。ヒトだった何かがあたりに散乱し、血の匂いが充満しています。
ーーえ?
理解するのに時間がかかりました。変な眼を植え付けられて地獄を巡っている間に、なにがあったというんでしょう。
ふと手が濡れている気がして両手を見ると、べっとりと赤い血。
そんな、まさか、
私は、ここいる人を、惨殺していた、?
そんな恐ろしい考えに至ってしまい、きっと何かの間違いだと、そう思い込みながら急いで手術室を出ました。
フラフラと宛もなく施設を歩きます。すると急に敵意を向けられているのを察知し、咄嗟に幻術で槍を作り出し、投げられたモノを弾きます。
パリンッ
投げられたものは、何かの薬品の入ったビン。
「エレナ…?」
ぶるぶると震えながら私を睨みつけるエレナが、そこに立っていました。怒りが溢れていました。
「どうして!どうして他の子供たちまで殺したの?!」
ガツンと頭を殴られた心地がしました。
「私は、必死に、止めたのに…」
エレナはポロポロと涙を流し始めました。私は胸が張り裂けそうでした。やはり私がここにいる人達全員を殺してしまったんですね。
………いいえ。きっとこれは、"私"ではなくて、"僕"がやってしまったことなのです。前世の"私"には、こんな惨いことは出来ません。ずっと心のどこかに眠っていて、ようやく目覚めてしまった"僕"のせいなのです。
冷静な"僕"だから、ここを安全に脱出するためには、事情を知った子供たちも1人残さず殲滅するしかないとわかっていたのでしょう。
「ごめんなさい」
これは、今したこととこれから先ずっと先の懺悔。僕は、道を踏み外してしまったんです。軌道修正できないほどに。
僕は幻術で彼女を向日葵畑に誘います。中では彼女の子供と旦那が手招きしています。
エレナは、よたよたとその向日葵の方へ歩んでいきます。幸せが途切れることのない夢を見て、どうか安らかに眠ってください。
「おやすみ、エレナ」
―――エストラーネオファミリー、殲滅。
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南条(プロフ) - 黒猫♪♪さん» 感想ありがとうございます!とても励みになります…! (2018年4月10日 7時) (レス) id: 05ac4354b9 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫♪♪(プロフ) - とても面白いです!自分のペースで更新頑張ってください! (2018年4月7日 4時) (レス) id: 80ca512ce2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:南条 | 作成日時:2013年8月30日 0時