標的30 めでたい日 ページ35
今朝は、いつもの朝と少し違っていました。
いつも通り床で目を覚まして、組織から配られる1日1回の供給のパンをもらうためにその辺に寝転がる実験体仲間を起こしてあげて、大人しく列に並んでいました。
あ、今日はエレナが供給係でしたか。
エレナの手からパンを受け取ると、エレナに頭を撫でられました。言いたいけれどなんといえばいいのかわからない、という表情をしながら。
私は不思議に思いながら追求することはやめておきました。エレナは存外頑固なので聞いても答えてくれないと知っていたからです。
でももしもこの時聞いていたら、何か変わっていたのでしょうか。
適当に本を読んだりして午前を過ごし、午後になると1日2,3人ずつ実験に呼ばれます。次は誰がいなくなるのか、次は自分なのか、と皆午前とは打って変わって大人しくなります。
すると今日呼ばれたのは私だけでした。
「No.696!ついにめでたい日が来たぞ!」
「……」
異様にはしゃぐ男に、これは本気でまずいのではと、不安になってきます。
今まで実験に耐えてきてここまで生き残っているのは私しかいないらしく、ファミリーの一大実験台として白羽の矢がたち、現在手術台に縛り付けられています。なんの嬉しさもない大抜擢です。
「ついに、これが、成功すれば!エストラーオネファミリーがてっぺんだあ!!ひゃはは!」
奴等が手術をする前からあんなに興奮しているのは初めてです。
他の大人達がカチャカチャと器具を準備する中、テンションの高い男は私を見ながらうっとりとした表情で喋り続けます。
「なあ、No.696… ここから俺たちの世界が始まるんだ…。
簡単に死ぬなよ」
その言葉はとてもじゃないですが、気味の悪いもので、簡単に死ぬのが予想される程のリスクのあるものなのだと理解させられました。
ここで、こんなところで、終わってたまるものですか。まだエレナにも恩返ししていないのに。あの両親を殺したマフィアに復讐もしてやれていないのに!
しかし強く反抗する気持ちとは裏腹に、私は麻酔によって眠らされて、それから夢のようなーーーいや、夢と思えたならどれほどよかったかーーー地獄を巡るのでした。
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南条(プロフ) - 黒猫♪♪さん» 感想ありがとうございます!とても励みになります…! (2018年4月10日 7時) (レス) id: 05ac4354b9 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫♪♪(プロフ) - とても面白いです!自分のペースで更新頑張ってください! (2018年4月7日 4時) (レス) id: 80ca512ce2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:南条 | 作成日時:2013年8月30日 0時