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蜩の何処か哀しげな鳴き声

その声が空に紫紺を招く

やがて入れ替わる虫の音

煽る様な音色の重なりと

沈み行く夕日に背中を押されて

僕らは必死になって

わざと遠回りしながら道を走る

えっ?何で遠回りするかって?

だってその方がアドベンチャーっぽいでしょ?

君の手首を掴んでいた筈の僕の手は

いつのまにか掌をしっかり握り締めていた

…だって…何かいなくなっちゃいそうだもん…

「ちょっと痛いって!そんなに走らなくても…」

不安そうな君の表情

眉間の皺が細かく寄ってる

「大丈夫!僕について来て!取り敢えず急ご!」

「相変わらず強引な所は変わらないね」

「ん?そうかな?そんなつもりないんだけど」

されるがままの君は諦めた様に身を委ねた

「初めて会った時からそうだったもん。変な奴だなぁって思ってた」

「え〜君に言われたくないよ!君も充分ヘンテコだよ」

君は溜息を吐きながらも笑みを浮かべてる

「…てか…何処へ行くの?」

「あそこだよ!あ、そ、こ」

「あそこって…何処だよ」

「あそこはあそこだよ!夏休みには関係ない場所!」

「夏休みに関係ない場所?何だそれ」

「着いてからのお楽しみ!とにかく走ろ!」

「ちょっ!走らなくてもいいんじゃない?お〜い!」

戸惑う君の手首を僕は掴み直し

再び走り出す夕暮れの道

走る度にガチャガチャ煩いキーホルダー

それと共に重さが増すリュック

流石に詰め込み過ぎたかな?

でも備えあれば憂いなしだっけ?

何かの役に立つかもしんないもんね

本当だったら帰らなくちゃいけない時間

でも今日は家には戻らない

書き置きもしたしきっと大丈夫

おじいちゃんもよく言ってたじゃん

…男の子には冒険が必要だって…

こんな近所じゃ冒険にもならないけど

やっと夏らしくなったと僕は思っていた



やがて辿り着いた場所で僕らは足を止めた

手を繋いだまま、見上げた建物

目の前には闇色を纏ってそびえ立つ

辺りの薄暗さと相成って

まるで怪物が口を開けているみたいだ

見慣れた風景に混ざる少しの恐れ

不安そうな君が僕の手をギュッと握りしめる

払拭する様に気持ち明るめで君に声をかけた

「ここ!僕の学校!」

「学校?」

「そう!学校!夏休みに学校来る人なんていないでしょ?」

「いやいやいや、夏休みでも人はいるんじゃない?」

「夜なら誰もいないって!しかも君は違う学校だから僕の学校も見たいんじゃない?」

僕のドヤ顔に君は眉をひそめた


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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

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