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だけどそれとは真逆に

新しい景色へ塗り替えられていく度に

重ねた年月は遠ざかった筈なのに

更に鮮明さを増す記憶

それは存在そのものが色鮮やかだからだろうか

碁盤の目の様に張り巡らされた住宅街

双六の駒みたいに歩みを進めて

やがて辿り着いたゴール

立ち止まる僕ら

キミは催促する様に僕を見つめる

僕が頷けば キミは家には入らず

脇に逸れて庭へと駆けて行く

そんな姿に幸せを感じながらも

胸の奥が音を立てて縮こまるのは

期待より不安が大きいからだろうか

僕もキミの後を追って庭へと向かった

まだ真新しい匂いがする場所

裏手に周れば小さいけれど庭があり

静かに紅を零す木が一本

まだ未熟な緑たちの中で

そこだけ柔らかに明るく燈っていた

あの日 君から貰った百日紅の枝

枯らしちゃ駄目だと必死になって育てた

だけどなかなか大きくならなくて

いつまでたっても植木鉢サイズ

この木はこういう物なんだと思ってた

だけど今年に入って急に大きくなる百日紅

このままでは枯れてしまう!

…だから僕はここに帰って来たんだ…

「うわぁ大っきいね!」

何が楽しいのか

キミは木の周りをぐるぐる回る

移植した後は今までの分を取り戻すみたいに

あっという間に立派な大木となった百日紅

この場所も時は移ろって行ったけど

…それでも…あの頃に感じたあのままだ…

…ようやく帰って来たよ…この場所に…

あの頃の僕がいて幼馴染と君もそこにいる

その姿が目の前の光景に重なり

駆け出した先で転びそうになるキミ

慌てて助けようとしたのに

何故か身体が

金縛りにあったみたいに動かなくなる

その時 吹いた一陣の風

盛りを過ぎた百日紅が撒き散らされて

ひとつの形になる

その花びらがふわっとキミを受け止めた

えっ?どういう事?

……まさか……

キミは体勢を立て直して

花びらたちに話しかけている

何を喋ってるのか 耳を傾けたけど

キミの声はうまく聞き取れない

そして花吹雪の隙間に見えたのは

…黒髪と白い肌と濡れた瞳…

それは紛れも無い君

あの頃の姿のまま泣きそうに笑ってる

…その表情…変わんないな…

…だけどそれは…瞬間 夢の中へと消えてった…

「お友達と遊んでいい?」

嬉しそうにキミが聞いてくる

僕は慌てて大きく頷いた

「鬼ごっこしよう」

向こうへと走り出すキミ

…そっか…これが君が言っていた再会か…

僕はもう見る事が出来ない君にそっと手を振った

今日もこの庭には風が渡ってる


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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

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