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暗闇の中で一雫の紅
波紋が広がれば色鮮やかになる世界
無音の状況から囁き声が段々と近付き
嗅ぎ慣れた匂いが傍にある安心感
お気に入りの毛布にくるまって
迎えるいつもの朝みたい
このまま甘えたくてわざと瞳を固くつぶる
「ちょっと！こんな所で何してるの！」
…ん〜…何してる？って…何？
「…起きて…風邪ひくわよ…」
…まだ朝じゃないよ…もう少し…
「こら！起きなさい！」
耳元に響く声で慌てて飛び起きると
すぐそばに泣きそうな母さんと
ほっとして笑みを浮かべた父さんがいた
「もう……心配かけて…」
そう言うと僕の事をぎゅっと抱きしめて
嗚咽が耳元で煩い
…母さん…大袈裟なんだよなぁ…
「ちゃんと書き置きしたじゃん」
「書き置きしたって心配に決まってるでしょ？しかも人様の土地に勝手に入って…」
「いや…それは僕じゃなくて…」
そう言いかけて僕は立ち上がりあちこち見回した
…あれ？…君がいない…
ただ静かにひらひらと散る百日紅
それにつられる様に僕も涙が溢れていた
父さんが僕の頭を優しい撫でてポツリと呟く
「そっか…寂しかったんだな…」
えっ？…僕…寂しかったの？
仲良しの幼馴染が引っ越して
そして…大切な友達がいなくなってしまった
友達は多い方だと思っていたのに
幼馴染が引っ越して…君がいなくなった
自分が思っている以上に
それは大きな存在で
かけがえのない存在で
…きっと…大好きだったんだ…
父さんと母さんに連れられて帰る道
何度か振り返る百日紅
一瞬 紅が鮮やかに燈る
僕はそっと百日紅に手を振った
・
雲一つない抜けるような青い空
蝉時雨が降り注ぐ並木道
駆け出したくてうずうずしている手を
ぎゅっと握ればキミはちょっと複雑な表情
安心させる為に視線をちょっと落として
わざと勿体ぶって明るく話す
「もうすぐ秘密の場所に着くから…走り出すのは我慢」
「もうすぐ？」
「うん もうすぐ！」
僕が頷くとキミは嬉しそうに
「もうすぐもうすぐ！」と繰り返す
素直なのか 単純なのか 誰に似たのか…
僕の面影がキミの横顔に重なって
そんな自分が可笑しくて
繋いだ手と手のスイングが大きくなる
やがて並木道は途切れて始まる住宅地
昔この辺りは長閑な田園風景が広がっていた
虫や蛙を捕まえた場所も
ふざけていてはまってしまった用水路も
すっかり無くなってしまって
当たり前になっていく日常
それを悲しく思うのは
…ただの郷愁なんだろうか…
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作者名：青山白樹
作成日時：2021年1月11日 10時
