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盛りを過ぎた紅色の花びらが
雨の様に風に舞う
そして浮かび上がったのは
散る百日紅を静かに見上げている白い影
えっ?まさか…オバケ?
…いや…オバケよりもっと綺麗な感じ…
身体全体が眩くて光を放ってるみたい
あっ!絵本で見た事あるやつだ!
「妖精さん?妖精さんでしょ?」
白い影がこちらを見る
飴色のくりりとよく動く甘い瞳
透き通る様な白い肌に柔らかな黒髪
歳は僕と同じくらい…かな?
「ようせいさん?」
「そう!桜の花の妖精さんでしょ?」
少しずつ近付きながら僕が言うと
白い影はきょとんと目を丸くした
僕 おかしな事言った?
白い影はもう一度 視線を紅の花へ移す
「これは桜じゃなくて百日紅だよ」
「サルスベリ?じゃあ百日紅の妖精さん?」
「…残念ながら妖精ではないし…」
「違うの?じゃあ人間?」
考えてみれば絵本の妖精さんは
もっと小さいかも…確か翅もあるもんね
この子の背中には残念ながら翅は無い
なぁんだ…妖精じゃないのか
でも何処から入って来たの?
幼馴染の友達?それとも従兄弟とか?
…それなら…まぁ…いっか…
「ねっ!一緒に遊ぼ!」
君は不思議そうに首を傾げる
「遊ぶ?僕と?」
「うん!それより先におやつ!早く行こ!なくなっちゃう!」
戸惑う君の手を引いて僕らは走り出す
君の手は一瞬冷やっとしたけど
すぐに温かくなってふんわり甘い香りがした
「あれ?来てたの?」
幼馴染は親しげに話しかけ君におやつを渡す
君は躊躇いがちに貰って会釈した
…やっぱり…知り合いなのか…
僕はなんだか安心して
何故かいつもよりたくさんおやつを食べたっけ
その日から…君を含めた3人で遊ぶ様になった
君は幼稚園も小学校も違うみたいで
そこで会った事は無かったけど
幼馴染の家に行けば
いつも百日紅の木の下で待っていてくれたし
公園や空き地で遊んでいても
気付けばいつのまにか一緒に混ざっていた
僕にとって君は百日紅の花の様に
鮮やかに存在する人だった
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そういえば幼馴染が引越した頃から
君の姿を見かけなかった
もしかして準備とかで忙しかったのかな?
君が居なくなるという事が
一気に現実味を帯びてくる
思わず君を凝視すれば
視線は相変わらず百日紅のままの君が呟く
「僕の顔になんかついてる?」
「目と鼻と口…かな」
「んふ、何それ」
僕らしくない誤魔化し方がおかしかったのか
口角が上がる君
だけど瞳はやっぱり…百日紅から離れない
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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時