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幻燈機に照らされて瑠璃色が揺れる

そこに映し出されるのは

手に汗握る興奮の瞬間でも

笑いの合間に顔を出す哀愁でもなかった

それは、僕と君との想い出の欠片

この学校に来て初めて体験する寮生活

同じ部屋の君は思ったより人懐っこくて

親しくなるのにあまり時間はかからなかった

運良くクラスも同じだったせいか

距離は加速度をつけて縮まってく

真剣に勉学に励む授業中の静けさ

正反対の昼休みの食堂の騒がしさ

放課後の内緒の秘密の時間

お互いに沢山の君を見て 沢山の僕を見せた

切り取られた僕と君との場面が

映し出される度に鮮やかに蘇り

その時のお日様の匂いや風の音まで

身体が思い出し、感覚を体現する

記憶を辿るように見つめる画像

君の横顔にも緩やかに光がかかり

やがて止まる幻燈機

僕は胸がいっぱいになってるくせに

裏腹な言葉を呟いた

「これじゃサーカスじゃなくて幻燈会じゃん」

「確かに…でも実際のサーカスは呼べないから」

君はそう言って僕の口に琥珀糖を入れた

甘い琥珀糖を期待していたのに

それは日桂の味がして少しだけ涙を誘う

よりによって何で日桂なの?

甘い香りの割に辛い味が口内に広がる

それは ここから先の真実の延長なんだと

気付いた時、君はわざと破顔した笑みを浮かべた

「実はね…父さんの転勤が決まったんだ」

「えっ?いつ?何処?」

「…桜の咲く頃に…結構、遠いかな?」

君の呟いた言葉が透明な桜の花びらになる

「着いて行くの?だってその為の寮だろ?」

僕が反論すると

君は笑みを強めて首を横に振る

「このまま寮生活でいいって言ったんだけど…若い内に色々と見聞するのは大切って言われて…」

「…そんな…」

「だから春にサーカスは行けないんだ……ごめんね」

君の瞳は水分を湛えているのに

溢れる事はなくて笑顔のまま

納得のいかない僕は感情が入り乱れる

そんな急過ぎるよ!

このまま寮生活を送ればいいじゃないか!

君の気持ちなんてこれっぽっちも考えてない

これだから、大人は勝手だ!

そう抗議しかけて、僕は口を噤む

この結論を迎い入れなければいけない程

僕らの力はあまりに無力で幼い

無理して浮かべる君の笑顔が全ての答え

僕が怒りを露わにしても無意味

……そんな事、解っている…けど…

思わず震える僕の口元を

割って入ってするりと通る琥珀糖

今度は甘酸っぱい林檎の味

君は僕の唇に指で優しく触れて

花の様に柔らかく笑顔を綻ばせた


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青山白樹(プロフ) - だんぼさん» (;゚Д゚)何でその設定が解ったんですか?まさか女学生がだんぼさんモチーフだって事がバレてました?笑雨の日のお迎えって面倒臭いけど2人の距離が縮まる気がしますよね。雨に濡れると甘さを増す香りの中いつまでも優しく甘い2人でいて欲しいと願いを込めました。 (2019年6月29日 18時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
だんぼ(プロフ) - 青っち〜天邪鬼で意地っ張りで、でもすごく分かりやすいあの子♪ 蒸し蒸しとした季節ですが爽やかなお話の贈り物 どうもありがとう♪ただひとつだけ心配なのは傘を貰った女子が腐ってたら…(笑)ガン見され尾行されてるかも〜2人ともッ背後に注意よ〜(笑) (2019年6月29日 13時) (レス) id: b513b55378 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» やまさんこちらにも感想ありがとうございます。雨で諦めてたピンクムーンを早朝見つけて朱鷺色に染まり始める空の中の月がほんのり染まった様に見えたんです。ピンクと言っても実際の色とは関係ないのですが。こんな場面なら小さな秘密もきっと特別になりますよね。 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» 素敵な感想ありがとうございます。昔近所に古い喫茶店が有り覗いたら意外に混んでいる店内に驚いた事があります。やまさんの話を聞いて思い出して書いてみました。ソーダ水頼んでもアイスを乗っけるそんな優しいマスターと何かが始まる予感を感じて戴ければ幸いです笑 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
やま(プロフ) - そして、一つ前のお話も大変遅ればせながら拝読させていただきました。まさに桜月夜の宵!!桜色に染まる月の光を浴びる睦じいお二人に、胸がきゅんとします♪ (2019年5月22日 1時) (レス) id: 0f4c7ca2f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青山白樹
作成日時:2014年10月2日 12時

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