桜、蛍、楓、雪(2)

サブリミナルストロベリー ページ46

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仕事を終えて深夜の帰宅

「ただいま」

といつもの癖で呟いて

君はとっくの昔に寝てるんじゃないかと

慌てて口を噤んだのに

「おかえり」

と予想外の言葉が返って来て

申し訳なさとそれに勝る嬉しさで

気持ちは満たされていく

「ごめん。起こしちゃった？」

と思わず謝れば

「起きて待っていたかったんだ」

と君が手招く

その先はベランダ

夜風に静かに揺れる

レースのカーテンをくぐれば

ブルーブラックに広がる空と

雲の隙間から差す光

君の横顔を照らし出して

影さえも柔らかく映る

「ほら、ニュースでもやっていたから

きっとあなたも見てるんじゃないかなって

…それなら一緒に見たいと思って」

言い訳する様に言葉を紡ぐのに

ちっとも本心を隠さない君

隣に並べば、僕も素直になる不思議

「ストロベリーって言うのに

全然、赤くないんだね」

とか

「ストロベリーは

そんな意味じゃないんだよ」

だとか

「ストロベリーって名付けた人は

きっとすごくロマンティストだな」

なんて

ひとことふたこと言葉を重ねて

同じ月を見てまた笑みを浮かべて

視線を再び互いに向けて

沈黙に酔いしれながら吐息が溢れる

夢中で交わして一息ついて

そっと腕の中に納めたら

君が密かに笑って

胸元の内側も外側も擽ってく

「何でかな？苺の味がする」

「それ、僕も思った」

確かめる様にもう一度触れ合えば

それはやっぱり甘酸っぱくて

次のステップへいざなうから

慌てて理性を働かせて

おでことおでこをくっつける

「明日が休みじゃなくて残念」

「その分、週末は朝寝坊しようか」

「幸せな二度寝もオプションにつけてね」

そう言ってもう一回だけと、唇が近付く

やっぱり苺の味がするのは

一種のサブリミナル効果かな？

横目で月を見てウィンクしたら

一瞬赤く染まったのは

……きっと、気のせいじゃない


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