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天鵞絨と琥珀糖(1) ページ35




ばれない様に忍者にでもなって

そろりそろりと忍び足

時折 聞こえてくるボールの弾む音に

おっかなびっくりで慌てて潜るのは

錦糸の飾り紐が着いた臙脂色の天鵞絨

たたまれてカーブを描くドレープの先

狭く暗い隙間から見えるのは

屋根裏に上がる為の少々頼りない梯子

想定外の高さに毎回 心折れそうになるけど

下を見ないと気持ちを固めて

よいしょっと一歩

音を立てずにまた一歩

獲物に近付く蟷螂みたいに

静かに確実に足を運ぶ

ようやく辿りついてほっと一息つけば

細い窓から刺す陽光の中

君は壁にもたれて本を読んでた

まるで教会の天井画みたいな風景

そんな場面が講堂の薄汚れた屋根裏に

広がっているなんて誰が信じるだろう

でも、どんなに息を殺して見ていても

それは一瞬の幻

君の視線が上がれば君の広角も上がり

そこからこの場所は

切り取られた現実世界に戻る

「誰にも見つからなかった?」

「うん、大丈夫」

少し埃の着いたズボンをはたいて

僕が隣に座ると君は白い包みを差し出した

「昨日、実家から届いたんだ」

「うわぁ琥珀糖だ。美味しそう」

無邪気に喜ぶ僕に

満足気な君は指先で一粒掴んで

僕の口元へそっと押し入れた

淡い色に彩られたそれらは

きっとただただ甘いだけの物なのに

…今の僕らには…

…いや…僕にとって君のその仕草は…

とても魅力的で蠱惑的に見えた

「ん、甘い」

「みんなには内緒だよ。琥珀糖があるなんて解ったら、あっという間になくなっちゃうから」

「みんな甘党だもんね」

そう言って君も一粒 口に含んで

蜜の付いた指先をちろりと舐める

僕はなんだか

いけないものを見た気分になって

それを誤魔化す為に慌てて

ポケットから文庫本を取り出すと

君は目敏く見つけて悪戯っ子の顔になる

「あっ、それ読んだ事ある!……犯人教えてあげようか?」

「やめろよ。まだ読み始めたばっかり何だから」

「この間、ネタバラシしたの何処の誰だっけ?」

「あれは不可抗力。てっきりもう読んだと思ってたんだ」

僕が平謝りすれば、君はわざと頬を膨らませる

「お陰で面白さ半減だったんだよ。だから今度は僕の番」

「え〜勘弁してよ。やっと借りられて楽しみにしてるんだから」

「どうしよっかなぁ〜」

そう言って君は笑うけど

きっと何だかんだ言っても最後の最後まで

意地悪しないのを僕は知ってる

だって君は僕に優しくて甘い

…だから僕も…

ついつい君に甘くなってしまうんだ


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青山白樹(プロフ) - だんぼさん» (;゚Д゚)何でその設定が解ったんですか?まさか女学生がだんぼさんモチーフだって事がバレてました?笑雨の日のお迎えって面倒臭いけど2人の距離が縮まる気がしますよね。雨に濡れると甘さを増す香りの中いつまでも優しく甘い2人でいて欲しいと願いを込めました。 (2019年6月29日 18時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
だんぼ(プロフ) - 青っち〜天邪鬼で意地っ張りで、でもすごく分かりやすいあの子♪ 蒸し蒸しとした季節ですが爽やかなお話の贈り物 どうもありがとう♪ただひとつだけ心配なのは傘を貰った女子が腐ってたら…(笑)ガン見され尾行されてるかも〜2人ともッ背後に注意よ〜(笑) (2019年6月29日 13時) (レス) id: b513b55378 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» やまさんこちらにも感想ありがとうございます。雨で諦めてたピンクムーンを早朝見つけて朱鷺色に染まり始める空の中の月がほんのり染まった様に見えたんです。ピンクと言っても実際の色とは関係ないのですが。こんな場面なら小さな秘密もきっと特別になりますよね。 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
青山白樹(プロフ) - やまさん» 素敵な感想ありがとうございます。昔近所に古い喫茶店が有り覗いたら意外に混んでいる店内に驚いた事があります。やまさんの話を聞いて思い出して書いてみました。ソーダ水頼んでもアイスを乗っけるそんな優しいマスターと何かが始まる予感を感じて戴ければ幸いです笑 (2019年5月22日 10時) (レス) id: dc26697653 (このIDを非表示/違反報告)
やま(プロフ) - そして、一つ前のお話も大変遅ればせながら拝読させていただきました。まさに桜月夜の宵!!桜色に染まる月の光を浴びる睦じいお二人に、胸がきゅんとします♪ (2019年5月22日 1時) (レス) id: 0f4c7ca2f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:青山白樹
作成日時:2014年10月2日 12時

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