軍曹という男 ページ35
「軍曹という男は存在していた。この世に、確かに、存在していた。
…それも、遠い過去の話」
しんぺい神が言葉を紡いでいく
お伽噺を子供達に聞かせるように、優しく、語るように
過去形となっているその言葉に、ゾムは疑問を持つ
語り部に聞くために口を開こうとするが、しんぺい神が右手をスッと向けてそれを止める
「彼はこの世の戦争の罪を全て背負って生まれ落ちた。誰もが彼を忌み嫌った。
この世の必要悪として生まれ落ちた彼は、至極当然のようにそれを受け入れていた。
そこに、無知の少女が現れた」
「その少女は、この世の無知の罪を全て背負って生まれ落ちた子だった。
その名を、グリム」
しんぺい神が次の場面を語る前に、グルッペンが続ける
その行動に、誰もが驚いた
グルッペンは瞳に泪をためながら物語を続ける
「少女は問う。『如何して何も反論しないの？』本当に、無知であった。純粋であった。
大人が触れることが許されないような無垢さであった」
グルッペンは体験談のように語る
しんぺい神が語り継がれたものを淡々と語った物ならば、
グルッペンの物は自らの五感で経験したことのように語ったものだ
否、グルッペンは、きっと
「だが、軍曹はそれ以降の会話を彼女としなかった。できなかったのだ。
何故なら、
だが…世界は残酷だ。
必要悪は必ず形成されるものだ。そして、その生まれ変わりがグルッペン。
かつて彼女を愛した、嘗て彼女のたった一言で絆された、戦争の罪の具現化」
話し終わったグルッペンは、とても酷い顔をしていた
疲れが滲み出ていた。目が腫れていた。涙が伝った跡があった
そして、誰もが一番驚いたのは、グルッペンの右目が蒼色に変色していた
グリムと似た、グリムと全く同じ色をした、瞳
話の内容が現実離れしすぎて、誰も口を開かない
生まれ変わりなど、ありえるのだろうか
それに、辻褄の合わない部分もたくさんある
「…生まれ変わりっておかしくないか？グルッペンとグリムは同じ年齢。
その話を聞く限り軍曹はグリムが生きてるときに存在してた。
なら、グルッペンはグリムよりも年下って事にはならんの？」
コネシマが疑問を口にする
空色が、紅と蒼を射抜いた
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