.28 ページ28
_____
キヨの細長い手が私の口を塞ぐ。
まるで言いかけた言葉を拒絶するかのように。
どこか不機嫌そうな、いや、悲しそうな表情。
「その話聞きたくねぇから」
数秒後、私から手をどけたキヨは真剣な顔でそう言った。
その話……って、何を言おうとしてたか分かってるってこと?
それでいて聞きたくないってなんだそれ、分かんない。
「あーあー、この話終わり!ゲーセン行くぞ」
キヨは"なんで"と口に出そうとした私に気づいたのか食い気味にそう言って、伝票を持って席を立った。
淡々とレジに向かう大きな背中に私も着いていく。
「小銭全然ないや」
「そんくらい払ってやんよ」
「でも借りは作りたくないしなぁ」
「俺そんな粘着質に見える?」
「見えるね。一生あの時の150円が〜って言ってくるでしょ」
「そんなネチネチしてねぇよ。綾鷹一ヶ月分で全然おっけー」
「充分ネチネチじゃん」
自分の雑なボケにツボって声にならない声で笑うキヨに、つられて私も笑ってしまう。
きっとこうして喋ってるだけでいいんだろうな、キヨにとっての私ってのは。
恋愛話したくないとか、そんな感じかな。
___
「お前ゲーセンとか来んの?」
「小さい頃は休日とかよく行ってたよ」
「えー、ちゃんとガキじゃん」
「今もなおガキの人に言われてもね」
「じゃああれで負けた方がガキで」
キヨが指差したのは、座ってハンドルを握るタイプのレーシングゲーム。
急に勝負ふっかけてくる時点でもうガキ丸出しだよ。
「これキヨが得意なやつでしょ」
「なんでバレてんの」
「いや知らないけどどうせそうじゃん」
「まぁ手加減してやっから!」
突如始まったどっちがガキか戦争。
くだらなすぎるけど私も勝負事には熱くなってしまうタイプだ。
「うおーーーいっけぇえええ」
「うるさい!!!」
「っしゃああ一位!!!」
「ゲッソーからのあのバナナは不可避じゃん!」
「ふはははっ、ははは、…バナナは俺だけどゲッソーは知らんから!ふははっ」
「あとキヨうるさすぎね?よっぽどガキだよ」
「あ?なんか勝ったのに負けた気分だわ!」
二人で笑うこの時間、実は結構好き。
いつも素直になれないけど本当はキヨのこと大事な友達だとは思ってる。ちょっとだけ。
だからこの関係を壊したくないし、これ以上は踏み入りたくない。
それはキヨも同じだよね、?
_____
159人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゃゅ(プロフ) - いちご丸さん» ありがとうございますめっちゃ嬉しいです!頑張ります!(^-^) (9月15日 1時) (レス) id: fbf309b419 (このIDを非表示/違反報告)
いちご丸 - めっちゃ好きです!頑張ってください (9月14日 21時) (レス) @page1 id: 20a9a81cbb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゃゅ | 作成日時:2023年8月30日 0時