１日目 ページ2
初日はまず城内の案内から始まった。
案内役はエーミールだった。
幼い少女にエーミールは簡易的な地図を手渡すと、口を開いた。
「まず、その地図を見て下さい。ええと、そうです。こちらが外、こちらが中になります」
指をさしながら、いつもよりも更に穏やかな口調で話しかける。
Aは表情を変えず、軽く頷きながら静かに説明を聞いていた。彼女は最初の挨拶以外一言も言葉を話していない。
「では順番にこれから行ってみましょうか。ええ、順番です。まずは外から」
２人は手を繋いで外に出ると、城門へ向かった。その途中、幹部に出くわし揶揄されたものの、幸い少女は全く意味が分かっておらず、エーミールがひとり顔を赤くしてAを案内する事となった。
「…………！」
「いつ見ても凄いですよ。我々国の城門は」
エーミールが大きな城門を見上げて言った。Aの頬が微かに動いたことにも気づかず、誇らしげに話すエーミールは、Aの手を握り直して、一息ついてから歩き出した。「それでは行きましょうか」
「…………」
「えっ…えっと…ど、どうかしましたか？」慌てて尋ねた。
Aはすっと目を僅かに伏せ、呟いた。
「…なにもありません」
エーミールは一度聞き間違いかと思った。
その声は、８歳の声ではなかった。Aは見た目どおりの透き通った声の持ち主だった。スッと耳に入る音が心地いい。
「そ…そうですね。すみません」
「こちらこそ…」
＊
そのままエーミール達は順序良く城を回っていった。
「ここが訓練場です。訓練…練習をするところです。外に２つ、城内に１つあります。」
「訓練…」
「第１訓練場は、近接、そうですね…こうやって近い距離で戦う時の練習をします」エーミールはAの前に立って手を振り上げる仕草をした。
「！」
その瞬間、Aが悲痛な叫びを上げた。
そのとき、エーミールは思い出した。彼女は虞犯少女だということを。虞犯少女とは生活環境などから今後罪を犯す可能性があると考えられる少女のことだ。違和感はあった。虞犯少女と聞けば、不良のような女の子が来ると身構えていたが、こんなにも美しく、勤勉そうな少女が来たのだ。どういった事情があるのか、幹部も
そこで仮説が立った。虞犯少女である彼女は、人間を憎んでいるというよりは、
人間を信用していない、むしろ恐れているのかもしれない、と。
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作成日時：2021年6月9日 16時
