手のひらの上でサンバを踊るな【2nd】

with Rhythm Link ページ8

「む？あれは……？」




翌日、ESビルのリズリン事務所前にて。
いつも通り起床し、いつも通り出勤した神崎颯馬は、そこにいつもないものがあることに気づく。



事務所の扉の前に女が立っていた。
それも相当美しい、例えるなら椿や牡丹のように華やかな顔立ちの。


春の海を映したような澄んだ双眸の先には紅月のポスター。
その中でもどうやら女は敬人を見ているようだった。




「！」



気配を察知したのか、女がこちらに振り向く。
髪を耳にかけるその仕草さえ精錬されており、美人は所作まで美しいのかと感心する。



『あ……えっと？』



そこではっと颯馬は感心している場合ではないことに気づく。
だってここはリズリン事務所の前である。なら眼前のこの女は誰だ。


その容姿と仕草を見た限りモデルあたりが妥当だろうが、男性アイドルが主のリズリンに女性モデルが来ることは珍しいし、何より制服通勤禁止のここで学校の制服らしきものを着ているのが気になる。

もしも一般のファンがESのオフィスの方まで来てしまったのだとしたら一大事だ。




「そこの御仁！ここに何用であるか？」
『あー、私は……って剣？！日本の剣ですかそれ？！』
「え？嗚呼、正確には日本刀であるが……これに興味が？」



見た目からして大人しい、それこそ昔の人達が好むような淑やかな性格だと予想していたが、どうやら外したらしい。
見かけによらずだいぶグイグイくる。


『日本の和の文化は基本的になんでも興味があります！』
「そ、そうか！なら是非蓮巳殿の弓を射る姿なども見てみるといいだろう」
『弓？それはアーチェリーとかと違うんですか？』


女があまりにも幼子のようにキラキラとした目をするので、颯馬はなんだか弟の友達と話しているような気分になった。


「あーちぇりー？の方は我も詳しくないが、海外のものとはだいぶ異なると聞いておる。これも日本の武道のひとつであるからな」
『へぇー！是非見てみたいですね！』
「それから、武術ではなく舞踊にもこういった文化が……」
『わっすごく綺麗！……』





＊



「くそ、会議が長引いてしまった……うん？」


いつも通り起床し、いつも通り会議に参加し、いつもより遅くリズリン事務所に来た蓮巳敬人は、見慣れない光景に少し目を丸くした。


あそこにいるのは後輩かつ同ユニットの神崎颯馬と、“星見の後継者”で間違いないはずだ。が、先日スタプロですれ違った時の星見はあんな笑顔を浮かべていただろうか。

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