夢を見た ページ48
***
バン、と苛立ちにまかせて思い切り扉を開ければ、また暫く家を空けていたこともあり、ぬるい空気が這い出してくる。
杏寿郎さん、
頭の中で甘やかに響くA殿の声が、いっそ我が身を苛むようだ。
確かに。
煉獄は良い男である。
柱としての格も実力も備え、俺と違って後進を育てる気概もある。
信頼の厚い真の柱だ。
見目も…、とそこまで考えたところで、俺は頭をかきむしって乱暴に羽織を脱いだ。
お似合いだ、圧倒的に。
それはもう、あの敬一郎とかいう、女みたいな顔立ちの男より、ーーー俺より、よほど。
なにしろ任務帰りで疲れていた。
そうだ、寝不足だ。
寝不足だからわけのわからない感情に振り回されるのだ。
俺はさっさと眠ろうと、寝酒を煽って、そしてこれでもかと布団に潜った。
***
夢を見た。
女学生だったころのA殿だ。
空を覆うような巨大な鬼を斬って救いあげる。
俺を見上げるA殿の目がうるんで、かすかに熱を帯びる。
俺の顔に白魚のような指が伸びる。
ーーーさん、
唇がうすく開く。
それに触りたい。
手を伸ばして、その手が血に汚れていることに気づく。
途端にA殿の顔が嫌悪に歪む。
背後で雷が鳴っている。
***
ーーー扉を叩く音をしばらく無視して目を閉じていたが、いよいよ壊されるかというほど乱暴に叩かれ始め、俺は諦めて目を開ける。
まずい、飲みすぎた…。
立ち上がればくらり、と視界がぼやけ、今ひとつ定まらない足で玄関まで向かう。
ゴロゴロ…、と、空が不穏な音をたてていた。
天気が悪いようだ。
「なんだ、今日は非番ーーー、」
どうせ隠か誰かだろう、顔も見ずに言いかけて、俺は動きを止めた。
宇随が立っている。
いや、それよりーーー
「A殿…?」
「冨岡様、しばらくご厄介になりますが、よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げる彼女に、わけがわからないと俺は宇随を見上げた。
「あー、お前も住み込みの家政婦を探してると聞いてな、しばらくAさんを貸してやろうと煉獄が」
「いや、俺はそんなこと一言も」
そう言ってA殿に目線を移すと、彼女は「やはり、お心変わりされましたか…?」と眉を下げる。
俺が、無碍にするわけにもいかず突っ立っているのをいいことに、宇随は(ちょっと乱暴すぎるのでは?)という強さでA殿を俺の屋敷へ押し込んだ。
「まぁ、あとは派手によろしくしとけ」
そんなわけのわからないことを言いながら。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時