炎柱邸を訪ねる -2 ページ46
＊＊＊
「ああ！家の中でまで炎柱様、煉獄様などと呼ばれるのは気が滅入るからな！」
煉獄は、ご丁寧に俺の呟きを拾い上げ、説明を加える。
…無意識にほっとしている自分が情けなく、急にいたたまれなくなった。
視線を感じて振り向けば、後ろで宇随がにやにやとしているのに気づいた。
「なるほどねえ」
「……見るな」
A殿は、ほんの少しだけばつの悪そうな顔をしていたが、俺の狼狽には気づいていない様子でお茶菓子を用意すると告げてと厨へ引っ込む。
その後ろ姿を呆けて眺めていたら、宇随にバシンと背中を叩かれた。
「なあ、懸想の相手はあの子なんだろう」
「………………いや―――」
「なんだ今の沈黙。バレないとでも思ってんのか？この俺様に？
―――おい、煉獄！ちょっと来い！」
宇随はおかしさ抑えきれぬといった様子で、煉獄を手招きする。
なんだなんだとのしのし歩いてきた屋敷の主人は、その曇りのないまなこで宇随を見た。
「煉獄よぉ。お前、Aさんとはどうなんだ？あんなド派手な別嬪さんが家にいて、妙な気おきねえのか？住み込みだろう、寝屋も一つ屋根の下で」
なんてことを言い出すんだ、という俺の視線を黙殺して、宇随は、「どうなんだ？」と煉獄に尋ねる。
「うーむ、思い返せば確かに初日は弱ったな！」
「お、何があったんだ、事件か？」
「うむ。うっかりしていて、布団が一組しか―――」
思い出し笑いをこらえきれぬといった調子で喋る様子に、たまらず俺はほとんど反射的に立ち上がった。
完全に煉獄を見損なった。
そういう目的であてがわれた家政婦ではないことくらい、弁えていると思っていた。
「…すまんが失礼する」
そして声が怒りで震えるのをこらえ、炎柱邸を後にした。
A殿の顔も、今は見られないと思った。
あの泣きそうな顔で微笑むA殿を見れば、ひどいことを言ってしまいそうだった。
…こんなことなら、いっそ意地を張らずに自分の屋敷付きになってほしいと頼んでおけばよかった。
ただ、やはり思うのは。
自分は、別にA殿を家政婦とした雇いたいわけではない。
一つ屋根の下で暮らしたとして、彼女が可憐な割烹着姿で帰りを待っていたとして、…自分が彼女に臨んでいるのはそういうことではない。
寝屋、などと宇随が言うものだから。
いつか見た真っ白のうなじが脳裡に浮かんで、俺は堪えきれず頭を抱えて立ち止まった。
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (
レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます！ (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です！ずっと待ってました〜っ！！これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：イトカワ | 作成日時：2020年4月19日 22時
